『…』ブンッ…ブンッ…ブンッ…
 神賽学院の中庭、修練場も兼ねているスペースに、風を斬る音が響く。
かれこれ2時間程となるだろうか。延々と、同じ調子・・・否、判るものには判るであろう。
一振りとして同じものはない。
僅かずつ、僅かずつ異なる一振りが積み重ねられ続けているのである。至高の一振りを求めて、より近づいて行くために。
剣の振り手はヒロアンヴィ出身の黒髪の少女、スグハ。
異能“自己完全支配”を持ち、至高の一振りを只々求める一人の求道者である。

 さて、普段であれば只々修練が続き、良い時間となって修練場を去るのみであるのが日常。
然し、今日は少しばかりの違いが有った。
『おや、スグハさんじゃないですか。
精がでますねー。』
 やっほー、とばかりに大きく手を振っているのは通りかかった沖田総司。
白に近い髪に和装をし、腰には刀を佩いた少女。
彼女は病弱で体力が無く、知らぬ者・血を吐いている時ばかりを見る者の中には手弱女と思う者も多い。
・・・然し、一度戦う様を見たならば誰もが誤解であったと解するだろう。
その身は紛うこと無き修羅の一人。
高い戦闘力のみではなくその心根。“敵は斬れば良い”そう自然に考える、修羅の証たる精神性を持つ少女である。

 彼女は何の警戒も力みも無い様に、素振りを続ける少女に近づいていく。
最近どうです?とかこの前アス君がですねー、などと他愛も無いことを語りつつ。
少し遠回りして立てかけられた木刀の一本を取り、一歩、二歩と。
 そして距離にして凡そ3間(6m)、木刀を構え、何でもないように問いかける。

『スグハさん、一手、戦りませんか?』
『ええ、やりましょう』

 そういう事になった。



『“一歩、音超え”』
先に動いたのは沖田。
タンッ、と鋭く地を蹴りつけ、ほんの一瞬で距離を詰め・突きが放たれる。
狙いは眉間。直撃すれば言うまでもなく意識を落とし、そうは行かずともかすりさえすれば脳を揺らす一撃である。

『甘い。』
短く一言。
コマ飛ばしをしたかの様に眉間に迫る木刀の切っ先。
唯の人であれば迫り来る恐怖と死の予感に心乱される事必定の一撃を、
彼女は何ら驚く事無く冷静に、否、何も感じないかの様に木刀をあてがい、上にずらして対処する。
 スグハの異能“自己完全支配”は肉体を支配するのみの異能ではない。
その精神をも思うがままとし、一度精神への影響をONとするや、決して惑い冷静さを失う事無き身とする異能でもあるのである。

『今度は、こっち』
 相手の一撃をいなし、隙が出来た。
ならば確実に仕留められるよう、最強の一撃を打ち込むべきだ。
彼女の冷静な精神はそう解を出し、然るべき行動を開始する。
幸い、木刀は既に上段に有る。其の侭振り下ろしの構えへと。
・・・神経伝達速度最高、リミッター解除、思考速度高速化、体感時間延長、心拍数増加、酸素変換効率上昇、etc.etc
片足を下げ、振り下ろしを打ち込むに最適の距離を取り、振るうは最も重い最強の一撃。

そして“自己完全支配”による、一欠片のズレも無い再現が振るわれた。





『あら、起きたみたいねスグハさん。』
目が覚めると、目の前にはおっぱいがあった。でかい。
『・・・ハクさん。』
どうやら膝枕をされている・・・らしい。
幾らかの頭痛、頭に氷を当てられている涼しさ。
私は沖田さんと模擬戦をし、一撃を叩き込んだ、はずだ。
なのに何故?

『あ、起きましたかスグハさん!
どうも二人共倒れたみたいでして。
ハクさんが探しに来てくれて助かりました本当。』
『あんたに言っても聞きはしないとわかってるけど・・・
余り無茶しないようね、沖田。
全く、二人揃って倒れていて、心臓が飛び出るかと思ったわよ。』

どうやら、ハクさんが倒れている私達を見つけて、看病してくれていたらしい。
『つまり、引き分け。
でも、何が。』

『スグハさんの一撃を避けるのはこれ無理だなーと思いまして。
仕方ないから突きを無理やり振り下ろしにしました。』
『しました、じゃあ無いでしょう沖田!
腕の筋肉も断裂して、頭から血をだらだら流して、酷い状況だったじゃない!』
『でも斬れなくなる前に斬るにはそれしかなかったんですって。
沖田さん嘘つかない!』

・・・道理だ。極めて合理的。
だが、自らの頭を砕こうとする木刀を前に?
“自己完全支配”どころか、一切の精神支配能力を持たないのに?
いや、誰かが言っていた。彼女、沖田は“修羅”なのだと。
そういう事、なのだろう。
失敗を分析する。
失敗は2つ。

1つは沖田さんの精神性を甘く見たこと。致死に十分な最強の一撃を見て、なお避けるでも肩にずらすでも無く斬る事を選ぶ、自己を支配した自分と同じ選択を出来る修羅の精神性を。

2つは“再現が完全すぎた”事。最強の一撃を選んだことは良い。だが、振り下ろしへの変更に気がつきさえすれば速い一撃に変更して其の侭倒せたはずだ。

・・・普段なら、普通の戦闘中なら絶対に気がついた変化。
だが、もっとも重い一振り、今までの自分の振りの中における極みの一つ故に気がつけなかった。
他を気にかける余地があれば、勘働きをする余裕があれば、それはその分の集中力を使ってより重い振りとする余地があるという事なのだから。

『次は勝ちます。』
『いいえ、次こそ勝つのは沖田さんです!』

『ああもう、スグハさんって若しかして沖田と似たもの同士!?』
ハクさんの悲鳴が修練場に響き渡ったのであった。

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