晴れ渡る空。雲一つない清々しいまでの青空。
そんな天気の町の一角に、ぽつんと立つ石碑が一つ。
その前には一人の年頃の少女。その手には花束が握られてる。
後頭部に大きなリボンを結った黒髪の少女はしゃがむと、握っている花束を石碑の前に置かれた花束の群れの中に置いた。
辺りの通行人はそんな少女を気にせず道を行く。この世界では、極当たり前の光景なのだから。

この世界の人類文明は、実に様々な知性体・非知性体からの侵略に晒されている。
星々の彼方から飛来する他星系文明の武力勢力、地底に生息し独自の文明を築いてきた地底人、
最近では海洋資源の権益問題や工場から垂れ流される廃液に拠る海洋汚染問題で攻めて来た事で
海底人の文明が観測・判明した。他にも人類の中にもテロ行為を行う犯罪組織が居たり、
獰猛な巨大生物によって、人類の生活圏は常に脅かされていた。

勿論、人類とて屍を晒すなり無抵抗の奴隷に甘んじる事を良しとはしなかった。スーパーロボットという
超兵器を以ってそれらの脅威に立ち向かうものによって、市民の日々の安寧は保たれているのだ。

──だからと言って、「犠牲が無い」訳ではない。侵略者の市街地への攻撃に対して、必ずしも迎撃が
間に合わない事も、それで犠牲者が生まれているのも事実であり、その証拠が少女の目の前にある
石碑、「慰霊碑」であるのは少女のみならず町の人間全てが知っている。

だから、慰霊碑の前でしゃがみ込み神妙にしている少女の姿が目に入っても、道行く通行人は気にも留めない。
「ああ、犠牲者の遺族なんだろうな」くらいは浮かぶだろうが、それで終わり。すぐに別の思考に切り替わる。
たとえ当事者にとっては大きな悲劇だろうが、第三者は「他人」であり、大きな悲劇もありふれたものであれば
同情心も他人事として日常の慌ただしさに消えていく。

少女は静かに慰霊碑を見つめる。その目にわずかに怒りや悲しみが浮かぶが、すぐに消える。
少女は既に身内の墓参りは済ませていた。念願の冒険者学校への入学の報告を墓前で行い、その足でここに来たのだ。

慰霊碑に刻まれた犠牲者達の名前をしばらく眺めていた少女の耳に、つんざく様な音が飛び込んでくる。
頭上を見上げると、巨大な人型の物体が空を飛んでいるのが見えた。少女はその姿に見覚えがあった。
日本を、地球を守るスーパーロボットの内の一体であることは、度々流れるニュースや情報雑誌で
知っていた。空襲警報や避難警報もないから、パトロールの一環なのだろう。少女はそう結論付けた。

少女は立ち上がると、彼方へと飛び去るそれに向かって呟いた。

「私、行ってきます。そして、必ず帰ってきます。命を、笑顔を、明日を守れる力を手に。
 だから、私が返ってくるまで、地球の平和を頼みます───」

それが黒髪リボンの少女、「逢坂キリエ」の旅立ちであった────

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