少女は病院の中に居た。彼女の前を看護婦が慌ただしく動き回っている。
そんな中、少女はただ立ち尽くしていた。

「な、なんで…」

少女は眼前の光景に見覚えがあった。それは、自分が所属しているグループのリーダーが入院した病院ではなく、
自分の生まれ生きてきた世界の病院、それも───

「うう、ぐぅ…」
「腕が、腕がぁ…」
「○○さーん! どこですかー! ○○さーん!」
「△□さん、急いで鎮静剤を!」

喧騒に苦鳴や悲嘆が渦巻く、さながら「野戦病院」の様相を呈した

少女がかつて見た事ある情景だった。
それも第三者・傍観者としてではなく、当事者として。

走り出した少女は、フロアに並べられたベッドを行きかい、横たわる傷病者の顔を見ていく。
さながら、傷病者の顔を確認するかの様に。
全ての傷病者の顔をを確認した少女の横を、誰かが通り過ぎた。他にも通り過ぎる人が居る。
彼らはどこに行こうとしてるのか。

「あ、駄目…だって、だってそこは……」

彼らと同じ方向に歩き出す少女は、まるでそれを拒否する様な言葉を呟く。
辿り着いた先にあったのは、張り紙。その題名は「死亡者リスト」。

「やだ、やめて……やめて……だって……だって……」

吐き出される言葉とは裏腹に、リストに並んだ氏名に目を走らせる少女。

そして見つけ出す「少女の両親の名」。

「ああ……ああ……」

分かっていた事だ。少女の両親はあの時亡くなったことは。これはその追体験に過ぎないと。
湧き上がる悲しみに少女は胸を締め付けられる。

「──本当にそう?」

不意に背後から声を掛けられた。突然の事に振り替えると、リストを見て泣き喚く群衆の中に、一人の少女が居た。
影が差して顔はよく分からないが、長い黒髪でリボンをつけた少女。泣く訳でも悲しみに暮れる訳でも無く、ただ
表情無く目の前の少女を見つめている。

「…どういう事?」

少女の疑念の籠もった言葉に対し、その少女は指をさした。

少女の背後の壁に貼られた死亡者リストを。

訳が分からずリストを見た少女の目が見開かれた。

「!」

そこにはさっきまで大量に並んでた氏名が消え、代わりにたった一人の名が太字で大きく書かれていた。

ア  ス  ト  ル  フ  ォ  と。

「え…嘘…なんで……?」

いつの間にかリストも壁も消え、そこには緋袴の和装の少女と、銀髪の女性が居た。
彼女達は、たった一つのベットと見下ろしている。そこには、

「やだ、嘘、嘘、なんで、なんで……」

ズタズタになった血まみれの少年、自分が所属しているグループのリーダー、

アストルフォが横たわっていた。


─────────────────────────────────────────

「いやああああああああああああッ!」

突然の絶叫で見開かれた目に映ったのは、暗さと壁、いや天井だった。

「あ…」

横になってる現状を即座に把握した事で、今まで見ていたのが夢である事をキリエは理解した。

「夢、か……うぅっ?!」

安堵するも突如湧き上がった吐き気に、慌てて両手で口をふさぎ、部屋のトイレに駆け込むキリエ。

「はぁ、はぁ……」

トイレで一通り吐いた彼女は、流しで水を口に含み口の中の酸っぱさを洗い流す。

「はぁ、いつもの悪夢かと思ったら、まさか「オマケ」があるなんて…」

俯き、両手で自身を掻き抱く。
あんな悪夢を見る理由はなんとなく分かっていた。クラスメイトの一人が受けた外部依頼に
アストルフォがついて行き、そこで瀕死の重傷を負って帰ってきて、見舞いの為に病院に
行った時、僅かに漏れた悲鳴を聞いたからだ。

忘れていた訳じゃない。でも、日々の楽しさや忙しさにかまけて、心の隅に追いやっていたのは
少女にも分かっていた。

人 は 簡 単 に 死 ぬ と い う 現 実 を 。

自分のいた世界では「当たり前だった」事を。

「やだぁ、死んじゃやだぁ……いなくなっちゃやだぁ……」

こみ上がる涙で視界がぼやける。膨らむ不安が怯えとなり、キリエの身を震えさせる。

「…死なせない。失わせない。奪わせない。
 私は、その為にここに来たんだから……」

少女の決意の呟きが、夜の闇に溶けて消えていく───

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