七砂海世界の片隅、宝石海の島の一つに銃声が響く。
『3,2,1・・・Fire!』
パパパパン、と心地良く響く銃声の連続。
ばらばらに間隔を空けて並んだ十の的がほぼ同時に弾け、凍り、燃え、朽ちる。

キリアン・ザミエル。
紫と白を基調としたウェスタン風の服に亜麻色の長い三つ編みをたなびかせ、二丁拳銃を佩いた女。
十連射の後には暫しの静寂、残心を終えた彼女は溜息をつく。

『腕が落ちては居ないけど・・・どうにも伸びている気もしないのよねえ。
父さんも母さんも“基礎は叩き込んだ。そこからは他に学ぶなりして、自分のスタイルを見つけてからだ”ってこれ以上は教えてくれないし。』

理屈はわかるのだ。独自でも他の流派でも良い、次に進むには“色”を一つ足してからで無ければならぬ。
・・・そうでなければきっと何処かでどん詰まり、劣化複製に成り果てる。
技術は発展させ続けなければいけない。変化し続けなければいけない。
気まぐれにその顔を変え続ける砂漠に適応するには、そうでなければならないのだから。

『でも・・・やっぱり恨めしいものは恨めしいのよ。
何か・・・そうね、バゼットにでも相談してみましょう。
良い案が、とまでは言わずとも、きっと気分転換にはなるもの。』

独り言をつぶやきながらも的の回収を終え、友人への連絡を決める。
善は急げだ。今からならば夕食には間に合うだろう。



夕飯時、隠れ家風のレストラン、とでも言うのだろうか、
灯も弱く、外からは地味だが、洒落た内装をした店に女性が二人。
一人はキリィ、もう一人はバゼット・フラガ・マクレミッツ。
キリィの友人であるSPC(シャークパンチングセンター)職員。

『成る程、詰まり良い修行場なり先生なりが欲しい訳ですね。
確かに貴女の夢・・・“宝石海”の制覇を考えれば、腕を上げるのは必須ですから。
・・・あ、この砂竜のステーキ美味しいですね。流石キリィ、良い店を抑えている。』

『とっておきの店だもの。私の奢りだからガンガン食べなさいバゼット。
あ、この店バーボンも美味しいのよ。ウェイターさん、二杯お願い。
・・・まあ、そういう訳ね。何か心当たり無い?SPC(シャークパンチングセンター)以外で。』

『御馳走様です。ふふ、こうもご馳走されては真面目に考えないといけませんね。
SPCなら私が又手とり足取り指導するのですが、一度試して合わないと判断した物は仕方有りません。
そうですね・・・神賽島学園、知っていますか?
あそこならどうでしょう。確か七砂海同盟も積極的に人を送り込む気らしく、渡航費やら何やら補助金も出るらしいですよ。』

『其れよ!細かいことは明日職場で聞くとして・・・
流石バゼット、頼りになるわ。今日は飲み明かすわよ!』

乾杯!と届いたバーボンのジョッキを打ち合わせ、一煽り。
悩みもひとまず解決し、後は二人で楽しく飲むだけ。
友人同士の他愛無い話と空の皿、そしてジョッキを重ねながら夜は更けていく。



『と、言うわけで私はこれから神賽島学園に往くわ。
手紙は定期的に送るから心配しないでね。
あ、寮が決まるまでは職場の事務所に送ってくれれば転送されるようにしておくから。
ふふふ・・・長期休暇には成長した私を見て驚くが良いわ!
・・・と、この内容でお願いできる?“みどりのひと”』

こほん、と一息つき、目の前の椰子の木に語りかける。
電波も、魔導も、あらゆる通信を遮断する砂海を超えて情報を共有する人間の共生者。
郵便屋として島々を繋ぐ植物の知性“みどりのひと”に。

「了解です、ミス・キリィ。貴女の旅に、幸運を。
・・・旅立つ人よ、“私達”の総意による餞別があります。そこを少し掘って頂けますか?」

さやさや、カチカチ、葉の擦れる音と実のかち合う音が響き、重なり、声として聞こえる音を形成する。

『ん、了解。此処ね?・・・これ、琥珀?』

示された所を軽く掘ると、大粒の琥珀が一つ。
躯は容易く砂に還るこの世界において、最上級の宝石である琥珀、それもこの大きさとなれば、一寸した一財産となるだろう。

「ええ。向こうの世界ではそう高くはなりませんが、それでも非常用の財産程度には十分でしょう。
一寸した保険に成れば幸いです。」

『・・・ありがとう、“みどりのひと”!
大切にするわ!』

土を払った琥珀に口付けし、飛びきりの笑顔を一つ。
そのままキリィは大きく手を振り、船へと走っていく。


そして船に乗り、次元を渡る直前、
キリィは窓から身を乗り出し叫ぶ。
『まってなさい“宝石海”きっと多くを学んで、力を付けて、制覇しに戻ってくるんだから!』

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