私には兄がいる。

兄は、私にとっての憧れだった。/誰にでも優しく、不幸を笑い飛ばし、争いを好まない。
兄は、私にとって憧れだった。/戦うことは出来なくても、強い心を持っていたから。
兄は、私にとって憧れだった。/いつか、私のことを殺さなければならない。そんな運命に抗い続けてくれたから。

そして、私の憧れだった兄は、あの日一度死んだ。
兄は、私にとって憧れだった。だったのだ。



兄は昔からよく笑う人だった。
何が楽しくて笑うのか、と聞いたことがある。
「今日も1日平和だった。それが幸せなんだよ」
なんてことのないように、兄は私の頭を撫でながらそう言った。

兄は昔からよく泣く人だった。
何が悲しくて泣くのか、と聞いたことがある。
「今日も多くの人が死んだ。それが悲しいんだよ」
決して泣き顔を私に見せないように、膝を抱えて座りながらそう言った



兄は、争うことが嫌いだった。
決してその拳を振るおうとせず、どれだけ辛い目にあおうとも言葉で何とかしようとしていた。

兄は、争うことが嫌いだった。
だけど、私が危ない目に合いそうな時だけは、見たこともないような怖い顔で、その拳を振るった。



その日、私は兄とともに何時も通り公園へと続く道を手を繋ぎながら歩いていた。
少し照れくさかったが、この時間が私にとっては呪われた運命に悩まなくて済む瞬間だった。
繋いだ手の暖かさが、私を安心させてくれた。

──だけど、その暖かさは一瞬で私の心から消え去ってしまった。

大きな爆発音、人々の悲鳴、そしてそれを引き起こしてるであろう者達の罵声。

兄はすぐに私の手を引き走り出す。しかし、その手は先ほどよりときつく握られ、そして冷たかった。

その後のことは、あまり鮮明に覚えていない。
私はどうやら逃げている最中に気絶して、そこを助けられた、と聞いた。

そして、そのそばに、兄の姿はなかった、とも。



今思い出すととても恥ずかしいが、その時の私は酷く狼狽していたらしい。
ずっと2人っきりだった兄を失ったとそう思っていたのだから仕方ない、ときりちゃんとしらちゃんにはフォローされたけれど。

兄はすぐに見つかった。何処で見つかったのか、詳しく教えてもらえなかったけれど、皆で助けてくれたらしい。

私は嬉しさのあまり、えるちゃんたちの制止を振り切り兄の病室へと飛び込んだ。
・・・そして、絶望した。絶望してしまった。

「やぁ、■■■。無事でよかったよ」

そこに、私の知っている兄はいなかったから。

『違う』

兄はそんな顔で笑わない。そんな目をしない。

「違うって何がさ。僕は僕だよ?そうだ、聞いてくれ。僕、強くなることに決めたんだ」

『違う』

兄はそんな嬉しそうに力を得ることを求めたりしない。そんな、狂気に染まったような笑顔はしない。

『違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!』

──だから、私にとって大好きだった兄はきっと、あの日に死んだのだ。



『んっ・・・』

懐かしい夢を見ていた気がする。
私が、騎士になることを目標とした、あの日の夢だ。

『・・・・・・はぁ。』

正直にいえば、この夢は私にとって黒歴史であり、消し去りたい過去だ。
兄との仲は今でも悪くないと思っている。ただ、昔のようにはいられないくなった、と言うだけだ。

『・・・・・・あ、メール着てる。なになに・・・、夏休みは友人の所に泊めてもらいます。』
『ごめんなさい、か。相変わらず律儀というかなんというか・・・』

思わず笑顔を零す。兄は変わってしまったものの、変わらない所もある。学園でも、友人を作って楽しんでいるようだった。

『さて、私も兄さんに負けてられないわね。今日も1日頑張るか!』

伸びをすると、パキパキと関節がいい音を鳴らす。

『あらゆるものをこの手で守るために』
それが私の目標。兄さんが全てを斬るのならば、大切なものを斬らないように、私が守ってあげるのだ。

それが、今の兄さんのために、私ができることだから。



兄は、私にとって憧れだった。/今は、共に並び立つと決めた。

兄は、私にとって憧れだった。/今は、守られるのではなく守りたくなった。

兄は、私にとって憧れだった。
兄さんは私にとっての・・・。

このページへのコメント

遅くなりましたが断章乙です!
今まで慕っていた兄が変わり果てていればそりゃ違うと否定したくなるわな…
けど同時に真っ当な目標もできて仲も悪くならなかったのはある種の幸運か
しかし、兄以外のメンバーが女性で行く先も女性ばかりと知ったらどう思うのやら

Posted by 朧 2017年07月11日(火) 18:56:11

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