「私、神賽島学園に入る!」

ルビーは大きな声でそう宣言した。
僕と父さん、そしてルビーの三人が夕食を取ってる時の事。進路についての話題になった。
僕とルビーは今の学校を卒業した後の進路について考える時期に入っていた。
「私も冒険者になって、困ってる人たちを助けたいなって。警官もいいけど、冒険者の方がもっとロマンチックでイケてる感じっていうかほんとカッコイイ!」
僕たちの顔を交互に見ながら、シチューのスプーンを握りしめて熱弁する。
「ルビーらしいかな。小さい頃からそういうのに憧れてたし」
パンを齧りながら頷く。彼女は幼いころから本が好きで、特に悪者を退治する英雄の話が好きだった。
今の学校でも男子に交じって戦闘に関する授業を受けていて、成績はかなり優秀。ルビーが冒険者を養成する学校を選ぶのは当然と言えた。
「そうか。神賽島学園といえば世界でも最高峰で受験も最難関だが…良いだろう。頑張りなさい」
父さんはルビーにそう言った後、僕を見て
「お前はどうだ。進路は決めてるのか」
「僕は・・・・・・」
少し言いよどむ。進路について考えないといけないのはわかっていたが、自分が成りたいモノというのがはっきりと見つかっていないのが本音だった。
「・・・・・・」
隣に座っているルビーが、じっと僕を見てるのに気づく。それを見て
「僕も、神賽島学園に入りたい」
ごく自然に口からそう出ていた。
「ホント?」
「うん。色んな講義があって興味はあるし……それにあそこ、遠い上に全寮制らしいから。ルビーを一人にしたら心配だしね」
「そうだな。お前がしっかり面倒見てやれ」
「えーっ何それー」
うんうん頷く僕と父さんにルビーが抗議の声を上げた。
「フンだ、受験勉強わからないところあっても教えてあげないから」
それは困るからゴメンと笑いながら謝った。
「よろしい。明日からみっちりと鍛えてあげるから覚悟しなさい!」
やや芝居かかった仕草でビシッ、とスプーンをこっちに突きつける幼馴染。
こうして、僕らは神賽島学園に入学する事を決めた。



僕は幼いころ、ルビーの両親に引き取られた。どういう経緯でそうなったのかは、教えてもらっていない。
多分子供には話しにくい理由があるんだろうな、と思う。大きくなったら教えると言っていたが、実のところそう興味がある訳ではない。
何故なら、父さんと母さんは僕らを区別なく愛情を注いで育ててくれたからだ。血の繋がりはなくても、僕にとっての親はこの二人と胸を張って言える。
そんな訳でルビーとは小さいころから何をするにも一緒だった。
僕が引き取られたばかりの頃、父さんと母さんは夫婦別姓なのでどっちの姓を名乗るか僕に選ばせたそうだ。
「そうしたらお前は迷わず「ルビーと一緒がいい!」って言ったんだよ」
と、後に父さん少し残念そうに笑いながらそう言った。母さんは嬉しそうに笑っていた。
その頃から僕はルビーとお揃いが良かったんだと思う。進路に神賽島学園を選んだのも、つまりは彼女と一緒に居たかったからだ。
それぐらい、僕にとってルビーはとても大きな存在だった。



「私、冒険者になる為に学園に入学するの。スピネルも一緒だよ」

雪の積もった墓地。お墓の母さんにルビーはそう報告した。
ルビーは時折、こうして母さんの墓参りをしている。そう、僕らの母さんは既にいない。
父さんと母さんは魔獣ハンターをしていた。僕らの住んでる地域では魔獣が住んでおり、街にやってくることさえある。
通常の生物とは違う、悪意によって生まれるという魔獣と、それを狩るハンター。
二人ともハンターとしては評判の腕前だったけど、母さんはある魔獣と戦い帰ってこなかった。
その時の状況から死んだとみなされ、こうして遺品を収めたお墓が建てられている。
「その為に受験勉強毎日頑張ってる。私たち必ず合格するから、応援してね」
そう言って最後に祈る。一緒に手を合わせてながら、ルビーがヒーローに憧れたのは母さんの事もあるのかもしれないと、ふと思った。



「すっかり遅くなっちゃったね」
「そうだね」

墓参りの帰り道。夜の帳がとっくに降りていた。予定よりも遅い時間になってしまったのは、墓地が家から離れたところにある事と
”鍛錬の為歩いて帰ろう!”と、ルビーが言ったからである。
「・・・囲まれてるね」
「そうだね」
遅くなりそうだとわかった時、”近道だし森を突っ切ろう”と言うが早いか走り出したルビーを追って街道から離れた森に入り、数十分。
森を抜けた平原で、僕らは全身真っ黒な狼男のような魔獣たちに囲まれていた。
「大丈夫、魔獣って言っても弱い奴だから。ちゃんと武器もあるし。ほら用意して」
平気な顔で持っていた大鎌を収納状態から展開する。
墓参りにわざわざこんな物を持ってこさせたのは、こういう事態を想定していたからかと今更になって思い知りながら同じく鎌を構える。
「それじゃ、訓練通り。落ち着いて戦えば大丈夫だから。そっち側、お願いね」
ヒュンッと彼女は自身のスキルを使って一気に加速すると、魔獣に斬りかかっていった。
「ああ、もう本当に・・・・・・」スキルの副産物である薔薇の花びらと共に置き去りにされた僕は一人ごちると、彼女と反対側にいる魔獣へと向かった。

ザシュッという音ともに切り裂かれた魔獣が、チリへと帰る。
それを確認する間もなく、襲い掛かってきた別の魔獣の攻撃を避ける為にその場を飛びのいた。
「こん、のぉ!」
腹の底に力を籠め魔力を全身に回す。ルビーに加速のスキルがあるように、僕には自分の魔力を放出して身体能力や武器の威力を高めるスキルがある。
ルビーがスキルを使用した際にバラの花びらを生み出すのと同じように、全身からいくつもの紅い光をまき散らしながら戦い続ける。
魔獣は次々と襲い掛かってくるが、ルビーが言った通り個々の強さは大したことはない。複数の方向から同時に襲われないように気を付けつつ、一体また一体と倒していく。
「これで・・・最後ッ」
大きく振り被った大鎌の刃を腹に受け、最後の一体が断末魔を上げた。
チリになっていくそれを見て、息を吐きながら雪の上に倒れるように腰を下ろす。幸いケガはほとんどない物の、足場の良くない状態での戦闘は思ったより疲れた。
「終わった?」
「うん、お疲れ様・・・・・・」
気が付けば魔獣たちの声はもうしない。彼女は僕より多くの敵を相手していたけれど、全て片づけてしまったのだろう。
そう思いながら、彼女の方へと振り向いた。

「――――――。」

夜の黒と雪の白。
自身が生み出した薔薇の花びらを舞い散らせて。
月明かりに照らされたルビーの姿は、とても幻想的だった。





「――どうしたの、疲れちゃった?それともどこか怪我してる?」
心を奪われるとはこういう事か。その美しさに何も言えず、ただ見惚れてしまっている僕。
それに気づかず彼女は僕に近づくと、座り込んだままの僕に手を差し伸べた。
「・・・うん、ちょっと、疲れちゃった」
何とかそれだけ言うと、手を取って立ち上がる。
「よし。まだまだ鍛錬が足りないみたいだから、これからもしっかり訓練する事」
一緒に合格するんだからね、と笑顔で付けたして。
身体に付いた雪を払って、その場を後にした。
並んで歩きながら思う。ルビーはきっと神賽島学園に合格するだろう。
彼女と同じ学園に行きたいなら、そして一緒に居たいなら、ぼくはこれからも努力し続けないといけないだろう。
それはとてもやり甲斐のある事で、そうして得られる日々はきっととても楽しく幸せなもので。
「神賽島学園、楽しいと良いね」
「うん」


悪意が自分たちを狙っていることを。この先待ち受ける出来事を。
まだ見ぬ日々に思いを馳せる僕らには、知る由もなかった。

このページへのコメント

断章お疲れ様でした!学園に来る前の二人がどういった感じだったのか、そしてスピネルさんにとって
どれだけルビーが大きい存在なのかわかってよかったです
在りし日の一幕、時は流れ二人は別れ離れ、道が交差するのはいつの日か

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Posted by 朧 2017年12月18日(月) 00:06:06 返信

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