「砂漠の遺跡」



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 その世界は数百年前の大戦争によって文明が崩壊、地球上の自然と、生物の80%が死滅し、海さえ半分が蒸発してしまった中、人はしぶとく傲慢に
そして、争いながら生き続けていた。数少ない自然が残った場所(以後オアシス)に、一部の特権階級が住み、他の多くの人々は砂漠に井戸を掘りオアシス
から送られる配給品によって、生き長らえている。
 オゾン層の殆どが破壊され、紫外線が吸収されず真昼の砂漠に降り注ぐ中、集団の人影が砂場に足跡を残す。オゾン層が破壊された現在真昼に人が…
生物が行動することは稀である、その為まるで夜逃げするかの如くその足取りは静かで、定期的に足跡を消し跡を残さない。

「じじい、まだ着かないのか!」

 人影の一人が砂漠装備を着ていても40℃を越える暑さと、一々形跡を消す手間から苛立ち声を荒げる。宇宙飛行士が着る宇宙服のような異様な姿と
こもった声からは想像がしずらいが、その立ち振る舞いと気の短さから、若い新人の何でも屋だと想定できる。

「騒々しい奴だな、声を荒げる元気があるならさっさと歩かんかい」

 時代劇に出てくる駕籠の中から、若者よりも高性能(スリムな姿と声がクリアに聞こえる事から)な装備を着た、老人口調…そう老人ではなく老人口調の人物
が、鬱陶しいそうに返事を返す。その人物が老人と断定しないのは、何でも屋の集団がその姿を生で見たことがないからである。
 依頼前の打ち上げでは、中身は絶対ロリBBAだと断定する何でも屋もいたが正体は不明だ。

「成金じじいが!お前はそれ(駕籠)に乗ってるから楽だろうが、こっちは5日前から歩き詰めなんだよ!」

 若者がイラつきを抑えずに怒鳴る。老人口調の人物(以後翁)はちょっとした有名人で、若い頃、未探索の遺跡から持ち帰った遺物で一代にして財を成し
オアシス都市に住めるようになる程、見事に成り上がったのだ。

「落ち着け!今回の報酬のでかさをわかってるのか!!…申し訳ございません、後できつく言いつけるので」
「………ふん!まぁいいわい。小僧教えといてやるありがたく思えよ、目的地には今日中につくぞ」

 何でも屋のリーダー格の男が若者を抑えると、気まぐれかはたまた計画の内か用心深い翁が珍しく情報を開示した。その情報に集団はワァっと盛り上がり
今から得られる報酬に涎を垂らしていた。…しかし、その中でも一部の者が盛り上がらずに、静かにその様子眺めていた。

「(ひゃひゃひゃ、単純バカが羨ましいぜ。最初から目的地を目指していたら、2,3日で着いただろうに)」

 そう翁はその用心深さから態々、方向を覚えさせないように工夫して遠回りや、磁石がきかない地域を経由して道を案内していた。

「湧くのもええが、仕事は覚えているだろうな」
「ええ、もちろんです。翁が昔見つけた未探索の遺跡の護衛と、そこでの探索、更に遺物の輸送を承っております」
「ふん、そのちっこい脳ミソの割に覚えていたか、褒めてやるぞ」
「へへー、ありがとうございます」

 翁の尊大な態度に苛立ちながらも、湧いて出た儲け話に何でも屋の集団は歓喜していた。通常この様なでかい仕事は珍しい。翁のような財力を手に
入れたのなら何でも屋など使わずに、私兵を使いその儲けを一挙に独占できたはずであった。

「(おのれ鈴木め、おのれ田中め。よう謀ってくれたのぅ)」

 鈴木、田中なる人物は、未探索の遺跡を共に見つけた翁の昔の仲間であるが、ある事から遺跡の中で決別し道を別れた人物である。決別したといえ
危険な遺跡で、殺し合いに発展するほど激情に駆られることはなく、迷宮じみた遺跡の地図を鈴木が、遺跡までの地図を田中が、遺跡を開けるパスワード
を翁がそれぞれ所持し、自身だけ儲けないようにセーフティーを掛けた。しかし、遺跡脱出後の街で鈴木と田中は結託し翁を殺そうと謀っていた。辛くもその
謀略から逃れることが出来た翁は、こっそり持ち帰った遺物から資金を得て、二人を離反させるように策を成し、何とか三つ巴の構図を作る事に成功。
 こっそり遺物を持ち帰ったのは、二人も同じでその資金からお互いを牽制、以後60年に及ぶ3人の争いが続く。

「(二人を殺すのに、手間取るとはな…おかげでこんな奴らに頼るハメになったわい)」

 翁は争いに勝利するも、払った代償が大きかった。財産の70%が吹っ飛び、私兵はほぼ全滅、鈴木とはやり過ぎてしまい、オアシス都市の居住権は
剥奪されてしまった。

「(やってくれたのぉ鈴木…やってくれたのぉ田中…やってくれたのぉオアシス政府…)」

 翁は自身の過失は認めず盲信している、悪いのは全てかつての仲間たちとそして、自分を楽園から追い出した政府。鈴木と田中は復習を果たした。
ならばあとは…

「(コノ恨ミ晴ラサデオクベキカ)」

 翁は悪鬼の如く顔を歪め、悪魔の如く姦計をめぐらし、呆けた老人の如く素っ頓狂な発想に至る。



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「………楽園だ」

 漸く遺跡についた集団を待っていたのは楽園の景色だった。砂漠で生きた者ならこの光景に目を奪われるのは無理がない、その遺跡は建設から少なく
とも数百年は経過しているはずだが、地下のはずなのに緑が生い茂り、どこにでも入ってくる砂埃は一粒たりとも確認できず、街の中心には今や黄金と
同価値の汚染されていない水が噴水として設置されていた。

「これってひょっとすると植物か!?初めて見たぞ俺!」
「おい!見ろ!水だ!水が湧いてる!?」
「何だこれ!?地下だってのに寒くない!?空調がまだ生きてんのか!?」
「騒ぐなバカタレ共、ここは未探索の遺跡じゃぞ警備がまだ生きてるのを忘れたか」

 余りの光景に、浮足が立った面々も翁の一括で地に足が付く、そうここは過去翁たち以外に入ったことがない未探索といっていいエリアだ。戦争末期に
製造された暴徒鎮圧用の過激な警備ロボや、従業員でさえ使い捨てるような警備システムがまだ生き残っているかもしれないのだ。…いや確実に生き
残ってる。それを証明するのが、まだ動いている空調であり、砂埃一つない綺麗な廊下であり、そして何よりこの場所にいた翁が証明だ。

「ひゃひゃひゃ。爺さんよ、ここからは俺らも勝手に探索していいんだよな」

 空調が生きてると知り、この場が汚染されていないと確信した、荷物持ちの青年が下卑た笑い顔と狒々のような甲高い笑い声を小さく上げ翁に問うた。
この青年こそ、後に異世界へ飛ばされることになる坊中正蔵その人である。

「ん?ああ、荷物が入る限りかっぱらってこい。わしは連れてきた護衛とあそこの建物におるからの」

 唯一全滅から逃れた翁の二人の私兵を連れて建物に入っていった。

「………」

 正蔵は翁の行動に違和感を感じた。守銭奴の塊と、猜疑心の塊を炉で合金したかのような翁が、遺物を俺たちに任せて自分は休憩する。あり得るの
だろうか…確かに翁は老人だ。高性能な耐熱スーツを纏い駕籠に揺られていただでも、相当の疲労になるだろう。しかし、翁が本物であるとは限らない。
そして何より…

「(金の匂いだ…俺たちからじゃなく爺さんから金の匂いがする…)」

 そう、自分たちより翁の方から芳醇な金の匂いが感じ取れる。確かに、自分たちが持ってきた遺物を翁が売り捌きその十数%がこちらに入る約束だ
翁の方が儲けるのは自明の理である。しかし、それを差し引いても翁からはむせ返る程に匂う。

「(ひゃひゃひゃ、これはビックチャンスかもな)」

 翁は隠している。この遺跡には何かとんでもない遺物が隠されているのだ。そう確信した正蔵は翁を付けることにした。



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「…ビンゴ」

 息をするかの如く呟く。翁を追っていたら、隠し通路と思わしき道へ進んでいった。

「(俺らは囮か)」

 地下深くに潜って行きしばらくすると、銃声や爆発音、終いには崩壊音さえ聞こえてくるようになった。十中八九、何でも屋と警備システムが衝突したの
だろう。翁も聞こえているであろう音を気にせずに進む姿を見て確信した。

「…ここだ」

 翁が立ち止まったのは廊下の中央、一体ここに何があるといのだろうか…
 老人がしゃがみ地面の証明に手を当てると、ゴゴゴと異音と共に廊下に下へと続く穴と梯子が現れた。

「お前たちはここで見張ってろ。ここから先はわし一人でいい」

 ここだ!と正蔵はこの瞬間に勝機を見出した。すぐさま、背負っていたM40A1(ボトルアクションライフル)を膝射に構え狙撃と共に、背中のロケットウインチ
を下へ続く穴の前上、天井に発射。引き寄せられる勢いをそのままに、もう一人を穴へ突き落す。

「よう、爺さん久しぶりだな」
「…何でも屋」

 ウィンチでぶら下がったまま下へ降り、梯子にしがみついていた翁に挨拶をするかのように気軽に声かけた。

「おっと、下手な真似はよしてくれよ、俺もこの砂漠で遭難なんて真似は嫌だからな」
「ふん、言われんでも無茶はせんわい」

 あら以外に素直と若干少子抜たが、交渉を開始しる。残念ながら帰り道はこの翁にしかわからないのでここのお宝独り占めという訳にはいかない。

「まぁ見事に見破ったと褒めてやる…最後の最後で噛みつかれるとは思わんだ」
「いやいや、こんな手荒な真似をしてるが噛みつく気はないんだぜ。ちょっと先輩にアドバイスが欲しいだけだ」
「ほう、小僧おぬしオアシス都市に住む気か」

 流石は年の功というべきか正蔵の目的を見事に見破った。正蔵は翁と同じように成り上がりオアシスに住み、埃と汚れにまみれた人生から脱却しよう
と考えていた。しかしそれには、金とコネが必要であった。

「爺さんが住んでいた時代なら人口調整で、金さえあれば住めてたんだが、今はもうコネも必要となった」
「生憎じゃのわしはオアシスに追い出されている。力なんてあってないようなものだ」
「爺さん自身に権力を求めてねぇさ、俺が欲しいのは紹介だ。…まだオアシスの人間と付き合いを持ってんだろ?」

 じゃないと大量の遺物を売り捌くなんて無理なはなしだと、ヘルメットからだが顔を卑屈に歪めているように翁は幻視した。こいつはかつての自分と同じだ
野心を原動力に、どんな手段でも目的を達成させる。その結果が自身の破滅でも、可能性があるなら迷わずに進むだろう。

「…いいだろう雇ってやる、わしの目的の為貴様にも働いてもらう。だがまずは遺物を獲りに行くぞ、ついてこい」
「交渉成立。了解です、雇用主サマ。 ひゃひゃひゃ」



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 そこは上の階と比べて異様な場所だった。何をするものなのか見当がつかない箱の数々と、それを繋ぐ無数の管、そして中央のいくつも設置されたボタン

「…何だここは?」
「ここは旧文明の軍事施設。それも普通の企業に偽装したな」

 今まで探索した遺跡とあまりに違う趣に、言葉を失い、絶対に失ってはいけない注意を失ってしまっていた。

「─────ッ!」

 暗い施設に乾いた破裂音が木霊する。正蔵はただ自身の不明を恥じた、武器は取り上げたはずだったが翁の右腕から煙が出ていた
翁という怪物を見誤っていた。

「(武器は全部取り上げたはずだったが…)」
「誰が貴様のような馬の骨に手を借りるか、だがわしにこれを使わせるとはな…」

 翁の右腕は散弾銃が内臓された義手であった。砂漠では考えられない贅沢品、通常砂漠では四肢を失ったら死んだも同然の扱いで、それを腕を真似て
模造品をそれも銃が内臓されているなど考えられない代物だ。

「貴様とわしの差は経験だったな…ふん!」

 動けない正蔵を引きずり、箱に詰めていく。

「これはな次元湾曲装置といってな、旧文明が発明した兵器で物を瞬時に跳ばす装置なんじゃ。昔はこれで爆弾を跳ばし合っていたそうだ」

 正蔵は動けない、………が決して翁を睨めつけるのをやめない。

「ふん。その目そっくりじゃ、決して相手を許さぬ、忘れぬ、自らの手で殺してやるといった目、─御爺様─にそっくりだ」
「――!?―――お…まえ…」

 冥土の土産と言わんばかりに翁は…いや少女はヘルメットを脱いだ。そこには枯れ木のような老人ではなく、瑞々しい若葉のような少女だった。

「鈴木のクソ爺と田中のクソ爺をヤったら御爺様は、満足して逝ったよ…だからオアシスは私たち家族を追放したオアシス政府は私が殺す」
「そうそう、さっき言った経験の差はオアシスに住んでいたか、いないかの差だ。残念だったな、何でも屋」
「――ッ!つ、っら…ぼえ…ぞ」
「覚えても意味ないさ。あースッキリした、やっぱり定期的に、王様の耳はロバの耳と叫んだ方が、精神衛生にいいな!」

 少女は満足げに話すと、装置を動かしていく。

「最後に一つ、遠くに跳ばすといってもそれは無機物だけだ、生物を跳ばす実験じゃどれも死亡を確認している。望みは持たない事だ」
「…のれ―――おのれ―――」

 カチャカチャターンと警戒に装置を稼働させ…

「じゃ、名前も知らない何でも屋お別れだバイバイ」
「覚えて―――

─────パチュン─────

「覚えるも何も君の事知らないしね」

 次はオアシス政府だと足取りを軽くし、施設を出て行った………誰もいなくなった施設でおどろおどろしい異音が聞こえる。





                                         チキチキチキ
                           ガタガタガタ
                 ギィギィギィ
                                  ギャギャギャギャ




──────────────────── コノ恨ミ晴ラサデオクベキカ ────────────────────

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