「砂漠の歩き方」



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 荒廃世界 枯れた地球。その世界は数百年前の大戦争によって文明が崩壊、地球上の自然と生物の80%が死滅し、昼間はオゾン層に遮断されず
生体に対する破壊性が最も強い紫外線が砂漠に降り注ぎ、夜は気温が氷点下を軽々と下回り、海さえ半分が蒸発,汚染してしまった中、人はしぶと
く傲慢にそして懲りずに争いながら生き続けていた。



 砂漠の危険は上記の通りだが、しかし砂漠の危険はそれだけに留まらない。



「ヒャッハー!!砂漠を一人で歩く馬鹿だ!新鮮な獲物だ逃がすなぁぁぁあああ!!」

「馬鹿はお前らだ!何で危険な真昼間に集団で活動してんだよ!」

「バーカ!活動しているのはお前もだろ!バーカ!バーカ!」

 危険な紫外線が降り注ぐ真昼間に騒ぐ馬鹿が・・・いいや、馬鹿どもが砂漠を走り回っていた。追われているのは坊中正蔵、数年後神賽学園に
通う事になる男だ。追っている集団はおそらくただの盗賊だろう、最低限の装備のみ、銃も振り回しているが一向に撃って来ない所を見ると弾がな
いのだろう。そのことから集団はそうとう困窮していると想像できる。・・・・・・今にも相手を食ってしまいそうだ。

「久しぶりに村で飯が食える!」 「俺ら全員が食える程の物持ってねえだろ、装備が古い」 「チビだしすぐ死ぬ」 「奴隷としても買いたたかれそう」

「じゃ、物だけ売って食っちまうか」 「「「賛成ー!」」」 「…俺は稚児にしたい…」

「ギャ─────!!」

 訂正。食ってしまいそうではなく、捕まれば確実に食べられてしまう。・・・・・・若干一名は違う意味で食べられそうだ。

「こ、の!いい加減にしやがれ!」

 いい加減痺れを切らしたのか、勿体ないとぼやきつつも愛銃のM97を振り向きざまに発砲する。不安定な体勢で、照準を合わせる時間もなかったが
火事場の馬鹿力か、上手くボスらしき男に当たり吹き飛ばす。

「お頭!」 「長!」 「隊長!」 「オヤジ!」

「・・・・・・痛ぇ!このガキ絶対許さねえし逃がさねえ!! あと、お前らいい加減呼び方統一しろ!」

「ゲェ!!そんな貧相な装備で何で耐えれる!?」

 正蔵の言葉は正しかった、夜盗のボスの装備はM97の12ゲージを耐えられる代物ではない。だと言うのに相手の怪我は軽傷ですんでいる。

「お頭は強いんだ」 「しかもやけに頑丈」 「ずる賢いし」 「でも偶にやらかす」

「うるせぇ!褒めるか、貶しすかどっちかにしやがれ!」

「「「「じゃ、馬鹿」」」」

「よし、お前ら一列に並べ。げんこつくれてやる」

 盗賊が漫才をしているうちにコッソリと離脱しようと後退りするようにゆっくり歩き出す。もう十数分も走れば採掘され尽くした枯れた遺跡が存在し
そこに逃げ切れば隠れる場所も、待ち伏せに適した場所も、M97を活かせる場所も多く存在する。

「お頭ぁ」 「言い訳は聞かねえ、さっさと頭出せ」

「でも長」 「聞かねえつってんだろ!」

「いや隊長そうじゃなくて」 「しつけえな!呼び方統一しろつってんだろ!」

「オヤジ、ガキが逃げるよー」

「何!?なんでさっさと言わねえんだこの馬鹿ども!!」

「「「「やっぱ、馬鹿だ」」」」



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 採掘され尽くした枯れた遺跡、それは旧文明の街あるいは施設。その中に存在する遺産を取り尽し、もはや風化した建物とゴミしかない場所である。
脆くなり今にも崩れそうな建物や一部が倒壊し原型がわからなくなった建物が多く存在し、道も崩れた瓦礫で塞がれていたり、発掘が強引にだったのか
瓦礫の山を無理やりかき分けるように作った道が混在し、もはや迷路と化している。

「どこに隠れやがったあのガキ!」

「お頭ぁもう諦めよ」

「ここに逃げられたら無理だ」

「割に合わない」

「ソロソロ日も暮れるし」

「この馬鹿どもメンツってもんを大事にしやがれ、この稼業舐められたら終わりだろ」

 倒壊し風化したビルの中腹に隠れ、漫ざ・・・盗賊を覗き見ながらさっさと諦めてくれとぼやく、割に合わないのは正蔵も同じであった。そもそもこの地域に
来たのは、届け物をこの先の村に届ける依頼を受けたからで、盗賊とは全く関係がなかった。

「昼間に活動する馬鹿はいないだろうと思ったが・・・・・・見通しが甘かったぜ」

 そもそもこの地域はある理由によって人通りが少なく、隣の村から一昼夜歩るけば着く距離のため襲えるような中継地点も存在しない。盗賊からすれば旨
味のない地域で、多少の危険を無視すればちょろい仕事のはずだった。

「危険は承知。でもこれは想定してねえよ」

 この遭遇は運がなかったとしか言いようがない、キャラバン隊であれば規模も大きく目立つので盗賊に目をつけられても仕方ないが、この広い砂漠でしかも
この世界の人間が基本的に活動しない昼間で、何の旨味もなさそうな男に襲い掛かってくるとは、きっと海の何某でも見抜けなかったであろう。
 相手にせざる得ないなら、もう少しまともな装備じゃなければ戦利品も期待できない、手配書を思い出すも相手の顔は乗っていない、弾代と命の危険だけが
掛かる本当に全く旨味もない相手である。・・・・・・逃げるのが吉だろう

「ボスがやけに頑丈なのは気になるが・・・・・・金に成りそうにねえな」

 どうせハルク病のようなミュータントだろうと ぼやきが止まらない。日も傾き夜の気配が近づくも相手は一向に諦める気配はない、長期戦になるかとげんなり
しかけた所にゴゴゴゴゴと地鳴りが鳴り響く。

「お頭これって」 「だから諦めようって言ったじゃん」 「メンツより命が大事」 「やっぱり、やらかした」

「「・・・・・・やば」」

 奇しくもボスと正蔵の声が重なった。地鳴りは近づくように音と振動を大きくし、終には遺跡全体を包むように砂埃が舞った。

「「「「「「・・・・・・・・・ごくっ」」」」」」

 この場にいる全員が唾を飲み覚悟を決めた。この地域に人が立ち寄らない理由の元凶であるコレ相手に、立ち向かうといった発想は湧かないただ身を小さ
くして事が済むのを待つだけである。


                         ド ─── ン


「やっぱりプラントだ」 「しかも一番でかい鯨型」 「捕まえれば億万長者」 「でも絶対無理、死ぬのがオチ」

「あー第一波はセーフだが、顔の向き的にやべぇな ありゃこっち来るぞ」

 地中から姿を現したのは鯨を模した巨大な機械、プラントと呼ばれる存在である。プラントは数百年経過した今なお動く旧文明最大の遺物であり、砂漠
に生きる者の天敵かつ希望である。プラントはあらゆる物を取り込み、物理法則を無視して生産を行う自律型工場で、ランダムで地中から顔を出し砂漠を
泳ぐかの様に何日も地上にあるものを食らいつくし、満足したら様々な物を吐き出しまた地中に潜る習性を持つ。またこの吐き出した遺物がこの世界の生
命線と言っていい程プラントに依存している。

「燃料がどうこう言ってる場合じゃねえ!」

 凶事というのは続くものなのか、被害こそ受けなかったが正蔵は盗賊とプラントに挟まれた形となり、悠長にしていれば気ままに泳ぐプラントの餌食に
なってしまう。ロケットウインチを稼働させビルからビルへと飛び移り逃げていくが・・・・・・

「あっガキだ」

 当然そんな目立つ移動をすれば見つかるのは必然である。

「いたか!オイッ!ガキ降りてこい!」

「ハァ!?馬鹿かがそんな事言ってる場合か!」

「うっせえバーカ!お前らガキを追いかけながら逃げるぞ!」

「無茶苦茶な」 「無謀だ長」 「逃げられるのがオチ」 「それかプラントに食われるのがオチ」

 プラントから逃げ切るには遺跡の外まで出なければならず一旦ビルから降りる必要がある。しかし、降りれば下の盗賊に見つかり美味しく頂れるだろう
かと言って撒くにも、プラントから逃げるので必死になり見通しの良い大通りに出てしまっている、撒くのに適した場所はプラントの方に向かわなければ
ならない。プラントに向かえば、逃げる時間がなくなりプラントにあっさり食われしまうだろう。正に前門の虎後門の狼。

「うぅーあぁー!もう!!」

 自身のリスクと、これから起こる損を天秤にかけ一瞬の迷いの後に行動を起こした。懐から特製の弾丸を取り出しM97に装弾し即座に盗賊のやや前方
に向けて発砲する。

 ドン!

「わっプププッ 大外れだバーカ!」

 多少の爆発と共に砂煙と色のついた煙が立ち込めるも、弾丸サイズの煙幕弾では長く続かず直ぐに煙が晴れてしまう。しかし、多少の準備が出来たのだ
ろう、ロケットウインチを最大まで伸ばし、遺跡の外縁部に引掛け一気に加速する。強烈な速度により人形の様に手足を力なくバタつかせ離脱を試みる。

「煙幕だ!? 時間稼ぎにもならねーぞガキ!追えー!!」

「大丈夫かな」 「まぁ、あの方向ならプラントからも逃げれる」 「毎回ピンチでも、なんとかなっちゃうのがうちのクオリティ」 「今回も何だかんだで生き残る」



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 気温が氷点下を軽々と下回る夜の遺跡、そこにはプラントが通ったあとであろう半円形の溝が出来上がっている。谷のようにえぐれた地表は暗い夜では底
を見る事は叶わないほど深い。その溝の数十メートル脇に小山が出来ていた。

「・・・・・・あっぶなぁ」

 小山に手と頭が生えた状態で正蔵は生存していた。自身の隠れた数十メートル脇をプラントが通った時は、死を覚悟したが存外 悪運は残っていたようで怪我
一つなく事なきを得ていた。

「あーあぁーあー。勿体ねえ、まだまだ使えたってのにロケットウインチを捨てるハメになるとは・・・・・・しかもチンケな盗賊相手に」

 正蔵は煙幕弾を放った時に、身代わりの風船を膨らましロケットウインチにくっつけて囮にして、自分が逃げる逆方向に飛ばしていたのだ。今頃盗賊は潰れた
風船を必死になって探しているのだろう、そう思うと気分も晴れ・・・・・・はれ・・・・・・

「晴れる訳ねえよぉ いくらすると思ってんだあの装備・・・・・・」

 今回の出費は弾薬数十発、特製煙幕弾1発、身代わり風船1個、ロケットウインチ1機と到底報酬に見合った損失とは言えない。
 しかし、それだけならまだ飲み込める範囲だが・・・・・・

「どー見てもプラントが行った方向って目的地の方だよなぁ」

 そう、プラントが泳いで行った方向は依頼の目的地であった。あの村には数少ない井戸があり、今頃混乱に乗じた火事場泥棒が群をなし、村の有力者が井戸
の水を一生懸命汲み上げ、その水を狙った暴徒が襲い掛かっている頃だろう。どう考えても割に合わない。

「受けた依頼は必ずやり遂げると言って看板下ろそうかね・・・・・・でもブランドがなくちゃ誰も仕事くれねえしな」

 あぁ、世知辛れとぼやきながら村の方へ走る。この看板で食っていけている正蔵としては面倒な状況で大した金にならなくても嫌々完遂しなければならない。
そこに正義感や義務感、誇りなどは一切存在せず、あるのは次儲けるための打算だけである。

「あぁー嫌だ、嫌だ。面倒くさくなる予感しかしねえよ」

 その予感は当たっていた。正蔵が着くころには村は大惨事、お零れを狙った先の盗賊も村へ向かい、一発逆転にプラントを狙う馬鹿、プラントが吐き出す遺
物を狙った政府と企業と厄介事に事欠かないだろう。

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