ビュォォォオオオオオ……
雪が混じった風で視界が閉ざされた山道。
熟練の登山家でも登るのを断念するほどの悪天候の中、何かを抱えた一人の少女が歩いている

『はぁっ…はぁっ…』

しかし、その呼吸は荒く、その歩みもかなり遅い。
無理もない。少しだけ鍛えられた年相応の肉体で、来ているのは子供が使うような防寒具のみ。
この吹雪の中において、もはや死にに行くようなものだ。では、なぜこの少女がここにいるのだろうか?
その理由は彼女が抱えているものにある

『誕生日、プレゼント…落とさないように、しないと…』

彼女が抱えている花はこの山でしか取れない綺麗なもので、それを幼馴染の姉弟の退場日プレゼントに
送ろうと山に入ったのだが、無事に採取しあとは帰るだけという時になって天候が荒れ始めたために
遭難してしまい、このような状況となってしまった

『うッ…』

ぼふんと音をたて、少女が雪の上に倒れこむ。長時間雪道を歩いたために蓄積された疲労。
猛吹雪のせいで手足にできた凍傷。その二つの要因が合わさり、精神的にも肉体的にも
限界が来てしまっていた。そのせいで、少女はもはや立ち上がることもできない

『動か、ない、と…せっ、かく、の…お花、が…プレ、ゼント…なの、に…』

冷えていく体、薄れていく意識、近づいてくる死の感覚。その最中でなお
彼女は自分の命よりも幼馴染の誕生日プレゼントとして採ってきた花を気にかけていた。
それゆえか、倒れた今も採ってきた花を大切に守ろうとぎゅっと体を丸くする。
これならば花は守れるだろう。しかし、死は着々と迫っており、命を落とすのは時間の問題だろう
そう、このままであれば

『……?』

ふと、視界の端に白以外の色が目に入る。それは赤のようにも、青のようにも見える不思議な色だ
一瞬だけ見えたのならば死の間際に見せた幻覚と思っただろう。
しかし、それは徐々に徐々にこちらに近づいてきており、ついにははっきりと色が見えるほどまで近づいてきた。

《……ようやく、見つけた。》

光を纏った何かが声を出す。それに対し、凍傷による痛みと動くこともだるく感じるほどの疲労を感じながらも
少女はそれが何なのかを見ようと顔を上げる。光でか、はたまた目が見えづらくなったからか、顔は見えない。
わかるのは緋と瑠の翼を持ち、強く輝く瑠璃色の鎧と青髪。静かながらも真っ直ぐで、どこか安堵したような璃瞳だけ

《息は…まだあるな。だが、凍傷がひどいか。すぐに、里まで届けてやる。》

そう言ってその誰かは少女を抱きかかえると同時に何かを飲ませ、瑠璃色のマフラーを巻かせていく。
飲まされたなにかは薬だったのか、少女は今まであった凍傷の痛みと疲れが少しずつ薄れていくのを感じ
気が楽になっていき、意識が眠りに落ちていく。完全に落ちる前、これだけは言おうと少女の口が開き

『……あり、がとう。綺麗、な、光の、人……』
《………どういたしまして、朧。》





どこかの家。そこからどこか暑苦しい男の声が大きく聞こえてくる。
他にも女性の声や三人ほどの子供の声も聞こえてくるが、男の泣き叫ぶかのような声が一番目立つだろう
そんな家から眼鏡をかけ、マフラーを首に巻いた女性とその後を追って和服を着た少女が出てくる。

『ふぅ…』
『なんとか後遺症とか無いようでよかったですね。――さん』
『あぁ、そうだな。だが、今その名を出すのは…』
『あ、ごめんなさい。詩乃さん』

二人は先ほどまで雪山で遭難した少女を自分たちの子と一緒に見舞いに来ていた。
少女の親と一緒に医者の健診結果を聞いていたところ、少女の目が覚めたため家族と幼馴染である子供たちと
一緒にしてあげようと、いったん出てきたのだ

『けどよかったんですか?本当のことを言わなくて』
『当然だ。今回は人命優先である事と子供たちのためにあの姿になったが、本来ならばなってはならぬ上』
『それを誰かに見られるわけにもいかん。故に、今回は誰かが朧を助け、家の入口まで運んだということにする。』
『…それでいいなら私は何も言いませんけど…どうして隠すんですか?』
『私が「ソルス」とばれるのは厄介故な。立場で動きが制限されては、全体を見ていくことができん』
『ある程度上の立場にいて、視察という体であちこちを見て回れる方がいざという時、対処できていい』

周囲に誰もおらず、聞き耳を立てているのがいないのを確認し、中の様子が落ち着くまでの時間つぶしを兼ねて
会話をしていく。

『そのせいで、璃巫女代理としてアルクが忙しそうにしてますけどねー。』ジトー
『……それに関しては、本当にすまないと思っている。』
『それ、私じゃなくてアルクに言うべきことですよ。…あ、そういえば。学園から来てほしいって連絡来てました。』
『講義とファンクラブの定期的な鎮静をしてほしいそうです』
『…講義に関してはいいが、またか。イロカネ教の事がある以上、あくまで外部の講師であるというに』
『なぜファンクラブなんぞができてるんだか…』
(……時間があれば講師として行ってるせいで結構顔を見るからじゃ…)
『それに、シノンはもういないあの子の名である故、呼ぶなというに愛称かは知らんが定着しているのも…』
『…まぁ、いい。朧の事がある以上、数日留まらなければならぬ故、遅くなると連絡はしておこう』
『わかりました。では、そのように予定立てておきます…っと、どうやら中が落ち着いてきたみたいですね。』
『そのようだな。では、戻るとしようか』

そう言って、家の外にいた二人は先ほどと同じように中に入っていった………


―――これは、吹雪の中、その目に焼き付いた輝きの主との再会を望む少女が学園へ入学する十年前の話

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