12月2◇日

あの子から異世界間通信が来た。今年の正月はこちらに帰ってくるらしい。
声や姿は性転換する前のものだったので、『ある程度の事情は知っているからありのままの姿で帰ってくるように』と伝えたところ、激しく動揺した返答が返ってきた。
あんな動揺した姿を見るのは二年前にあの子の部屋のベッドの下を掃除しようとした時以来だ。
マザークラスタの皆もあの子に会いたがっていたし、丁度いい機会だ。
正月はマザー・クラスタの皆も一緒に過ごすことにしよう。



12月3〇日

あの子が帰ってきた。姿は神賽世界の映像で見たのと同じ、金髪に翠眼で顔つきも私に似ても似つかない姿だった。
玄関先であの子を抱き寄せ、お帰りと言ってあげた。ただいま母さん、と返してくれた。
背丈も小さくなって、8か月前はしっかりとした体も華奢で柔らかい肉付きに変わってしまっていたが、間違いなく私とあの人との子供のままだった。

家に入って荷物を下ろしてから、あの子の身に何があったのかを聞いた。
異世界の別荘地に来て浮かれていたこと。同じグループの子と不用心に路地裏を歩き回ったこと。突然拉致され、女の姿にされたこと。
そして奴隷としての加工を受けたこと。そのままオークションに売り出される前に助けられたこと。
…そして友達に自分の主人になるよう迫ったこと。

治安のよくない地域の裏路地に不用意に足を踏み入れる…この世界でも命を落としかねない行為だが、命があって何よりだと喜ぶべきなのだろう。
しかし私が大切なあの子と過ごした16年間の結果を悪辣な人間の欲望のために破壊されたことに対する怒りと悲しみが抑えられなかった。
話を聞いて涙を流してしまった私を見て、あの子は『ごめんなさい』と何度も謝った。真に悪いのはあの子ではないのに。

しばらく気持ちを落ち着かせてから、久しぶりにあの子と夕食を食べた。性別が変わっても味の嗜好に大きな変化はないようで何度もおかわりしてくれた。

夕食後、帰省時の疲れなのかあの子がウトウトしていたので、気づかれないようにあの子の体をスキャンした。
あの子に施された加工の内容を確認し、そこから分かる神賽世界の異常さに背筋が凍るような思いをした。
この世界でも性奴隷は存在する。ツナミが裏で製造しているアンドロイドの中には最終処分先として性処理用に出荷される者も少なくはない。
しかしそれでも、ここまで厳重な改造を施すことはない。改造に必要なコストと売却時の利益が圧倒的に釣り合わないからだ。
だが実際あの子はオークションに売り出すために加工を受けている。しかもあの子を含めて3人分、個々で違う加工も施されたらしい。
このことから私は一つの推測をした。それは「神賽世界は性的改造技術が進歩し普遍化している」ということだ。つまり神賽世界ではこのような加工のコストが低いのだ。
そうなると神賽世界ではあのような加工が、ひいては性的行為自体が普通の行為であるという常識が広まっていることになる。
実際あの子の話では担任である幼女の姿の教師が別の教師をペットと称して全裸で連れまわしたり、生徒相手に房中術や夜伽を実技込みで教えているとのことだ。
異世界の物事を私達の世界の物差で計るべきではないことは承知している。しかしかつて私がいた世界と比べても、この事実は異様に思えてしまう。
ツナミでは来年神賽学園に調査要員として数名を受験させるようだが、この実態を知ったらどのように行動するのだろうか?

スキャンを終えた後、一旦目を覚まして自室に移動し眠りについた。やはり疲れが溜まっていたのか、8か月前と比較して少し早い就寝だ。
しかしスキャンで確認した加工内容の中にあった性拷問アイアンメイデンとはどのようなものなのだろうか。
性能試験も兼ねてあの子の部屋に設置した超小型カメラと超小型集音マイクによる映像を明日確認することにしよう。



12月31日

今日は大晦日。大掃除に御節料理の準備とやることが多い。
あの子も掃除を手伝ってくれたおかげで予定よりも早く掃除を終えることができた。
しかしあの子のベッドは一夜で酷い有様になっていた。ベッドシーツと布団の洗濯は予定していたが想像以上だった。

昨晩の様子の録画映像を見てその理由は分かった。例の性拷問アイアンメイデンとやらのせいだ。
あの子が完全に意識を落とした途端にあの子の体のみを閉じ込めるように突如アイアンメイデンじみた器具が出現し、明け方まで只管淫らな水音を内部から漏らしていた。
明け方、普段あの子が起床する時間になると性拷問アイアンメイデンは消え去り、そこには全身が粘性のある液体に塗れ、肌を紅潮させて嬌声を漏らしながら絶頂するあの子の姿があった。
就寝時に全裸になって布団に入った理由も分かった。服を着ていたらきっと悲惨なことになるからだろう。
それから小一時間程、体を起こそうとしては絶頂するを繰り返し、何とか全身の媚薬を拭い取り、服を着始めることができていた。
それでも日中は常に頬を赤らめ、下着を濡らしては履き替えるのを繰り返していた。あの子に施された加工が深刻なものであると再認識させられた。

大掃除と料理の準備が終わり、一息つきながらあの子が入学してからの出来事を話した。
隣の家の槇島沙織が夏休み帰ってこないことに落胆していたことや中学校の野球部であの子の先輩だった子がタイに手術を受けに行ったらしいという話など、
たわいのない話ばかりだったが、あの子にとっては自分以上の変化が起こってなくて安心したようだ。

店屋物の年越し蕎麦を食べ終えてから紅白歌合戦や年末恒例の「絶対に笑ってはいけない」シリーズを見ながら年明けを迎えた。
今年はあの子にこれ以上の不幸が訪れないように願うばかりである。



1月1日

新年最初の日。正月用にあの子の晴れ着を用意しておいてよかった。晴れ着を見た時は驚いていたが、嬉しそうに着てくれた。シミュレート結果通り、実によく似合っていた。

晴れ着に着替え、御節料理や雑煮を堪能していたら、マザー・クラスタの皆が新年の挨拶に来てくれた。
事前に話してあったとはいえ、実際に性転換したあの子の姿を見て皆驚いた様子だった。
ハギトはあの子が本当に女になったのか確かめたいから下を見せてくれと言い、オークゥとフルに殴り飛ばされていた。
オフィエルも医学的観点からどのように性転換してるのか研究したいので裸を見せて欲しいと言い、ファレグに空中サンドバッグの刑に処されていた。
アラトロンは新しい孫娘ができたと喜び、あの子の恋人が来たら相応しい人物か確かめてやると久しぶりに戦闘形態に変身して光っていた。
ベトールはあの子の姿を撮影したいとカメラを準備したので、皆で記念撮影をした。
例年よりも賑やかで楽しかった。

その後、皆で近所の神社に初詣に行った。
境内で槇島沙織に会い、あの子が性転換したことを話したところ、顔色を悪くし、後であの子と話がしたいと言い残しフラフラと立ち去って行った。
年明けに体調を崩すとは実に不憫な子だ。あの子がこれ以上体を壊されないよう、あの子が健やかでいますようにと祈願して家に戻った。

それから暫くの間マザー・クラスタの皆はあの子と話したり遊んだりしていた。
ハギトは艦これ世界という異世界についての話を聞いたり、ベトールとオフィエルは異世界の治癒スキルや記録結晶などの異世界技術の話を聞き出そうとしていた。
フルはあの子の主人となった友人との情事を取材しようとして、オークゥに阻止されていた。
アラトロンは自分の孫娘の話を聞かせてあげていた。ファレグは中東から仕事の連絡が来たからと、文字通りその場から飛んで戻ってしまった。

マザー・クラスタの皆が帰ってから、槇島沙織がやってきた。あの子と二人っきりで話がしたいと言うので家に上げ、あの子の部屋で二人で話をし始めた。
二人の会話内容についてはここに記すのはやめておこう。これは二人の問題なのだから。
しかしあえて録画映像の内容から一言だけ言うとしたら…人間の肛門はあそこまで拡がるものなのだな。



1月△日

今日はあの子が神賽学園に戻る日。結局あの子はマザー・クラスタの皆と槇島沙織以外には顔を出さなかった。
あの子が性転換したなど説明しても受け入れられる者ばかりではないため、仕方ないことなのだろう。

この世界の野球道具一式を新調し、意気揚々と異世界間鉄道に乗り込むあの子を見送った。
いずれ自分の主人となってくれた友人を紹介しにくるだそうだ。

遠ざかる鉄道を見ながら、私はあの子の変貌ぶりを思い返していた。
あの子は私が文字通り「作り出した」子だ。私の「あの人との子供」という空想をベースに「私の理想の子供」として具現化した存在だ。
私はあの子に「特別でなくていいから、普通で元気な子に育って欲しい」と願った。そしてあの子はその通りに成長していった。
外見はパワポケワールドの男子学生の平均的風貌になり、この世界の男子学生が平均的に好きなスポーツである野球を好み、子供が将来の夢として平均的に多い「プロ野球選手になる」夢を目指すようになった。
しかし私はあの子を「平均的な存在」に仕立て上げようとしてるだけだと気づいてしまった。このままではあの子は「人間」ではなく「私の望む通りの人形」でしかなくなってしまう。
だから神賽学園に異世界調査の為に新入生として人員を送るようツナミから要請された時、あの子を入学させることを思いついた。
異世界ならばきっとあの子は「私の理想」を越えて成長し変化してくれると考えた。
ルーサーも似たようなことを考え付いたのか、あの子が受験した高校に手を回してあの子を不合格にするよう裏工作を行っていたようだ。
そしてあの子が神賽学園に入学して半年以上。予想とは全く異なる形だがあの子は大きく変化してくれた。
プロ野球選手になる夢があの子の芯のような役目を果たし、ほとんど別存在に加工されてなお「私のコンマイ」を保ち続けることができている。
これであの子は「私の理想」という枷から解き放たれた。私の願った通りに。

おそらくあの子はさらに変化を続けるだろう。あの子が主人とした少年、彼の理想を具現化するために。
もしあの子が主人となった子を連れてきたらこのことを伝えよう。そしてあの子を託そう。
ルーサーは前々から私とあの子を研究対象として目を付けていたようだ。既にエーテル物質化生命体の製造実験を成功させたと報告も上がっている。
もしあの子を狙う存在があるとしたら、それはおそらくルーサーの手の者だろう。
あの子はまだ弱く頼りない所が多い。けれどあの子の主人ならきっとあの子を守ってくれるだろう。

あの子には幸せになって欲しい。それだけがあの子に望む最後の「理想」だ。

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