白百合のマヨヒガ

マヨヒガ、それはとある国で伝わっているとある伝承。訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家のことである。

ここ、神賽島世界においてもその噂は形を変えて広まっている。

「その家に迷い込むと一人の少女によって歓待され、美味しい食事を提供される」
「そして去り際に白百合の華を手渡され、元いた場所へと返される。」

今日もまた一人、マヨヒガに客が訪れる。
道に迷い、疲れた客が。



(2)ぐだぐだマイペース艦娘の場合

『・・・・・・んゆ?』

目が覚めるとそこは森の中だった。
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが
私も何をされたのかわからなかった・・・!

頭がどうにかなりそうだった・・・
催眠術だとか超スピードだとか
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

<もっと恐ろしいものの片鱗を味わったッス・・・!

『いや、モノローグ拾わないでよ。てかここどこ??』
<いや、自分も分かんないっスよ!

一人の少女とペンギンのようなナマモノ。
二人は目が覚めると見知らぬ場所にいた。

『・・・・・・潮の香りはしないねぇ。水場はあるみたいだけれど深海棲艦みたいな臭いがするよ』
<見たところヒトの気配も薄いっすね

冷静に状況分析を行う。
最近様々な事件続きだ。誘拐、という線もあるが、仮に誘拐ならばこんな所に放置しておくだろうか。いや、単に連れ去ることだけが目的だったのならばこの状況も頷ける。

『どっちにしたって少し散策しないとねぇ・・・』
<ッスね。

動かずに留まっていても助けは来ないだろう。
そう判断した二人は宛もなく森の中を散策し始めた。



数刻後

『疲れたー』グデー

周囲の散策の成果は全くなかった。同じような景色の中をぐるぐる回っている感覚に陥る。

『いや、むしろこの世界が閉じられている・・・?』

可能性は充分にある。
閉じ込めるだけならば、こういう森の形をとるのは理にかなっているから。

『だけど一体なんのためにー?』

そこが疑問だ。確かに自分は艦娘であるが、一艦娘をさらった所で何かがかわる訳では無い。

『ってあれ、ラッドは??』

ふと周りを見渡すと最近出来たペットの姿が見えない。
どこかではぐれたのだろうか。探そうと腰を上げたその時。

<ギャーッス!!

『!』

悲鳴が聞こえる。なにかに襲われたのだろうか。
武器を構え、声の聞こえた方向に走っていく。

『この先・・・!』

茂みの向こうを慎重に覗き込むと。

「あっはっは久々に見たけど相変わらず珍妙だなぁこれ!」
<話して欲しいっすー!!

執事服を着た男と、アイアンクローされてるペットの姿。

「久しぶりの里帰り中にいい土産が出来た。リリーも喜ぶだろうさ」
「・・・なんて、こいつはテメェのペットか?目をはなしちゃだめだろ」

気づかれた・・・!
奇襲して奪い返すつもりではあったがまさか気取られるとは。

『いやぁごめんね。敵対の意思はないからその子返してくんない??』

武器をしまい両手を上げながら茂みから出る。
しかし警戒は解かない。

「そんなに警戒すんじゃねぇ。俺は、あくまで執事なんだからよ」

『執事ぃ?なんで執事がこんなとこにいるのさ』

最もな疑問をぶつける。執事とこんな森の中、ミスマッチがすぎるだろう。

「里帰りだよ。てか、見たところ艦娘か?ウォースパイト以外に見たのは初めてだなおい」

心の中で舌打ちする。艦娘だとバレたということはこちらの戦闘方法も筒抜けだろう。艦装を出しての奇襲も封じられた。
こうなったら、本気でやる必要が・・・!

「まあいいや。着いてこいよ」

『・・・・・・は?』

相手が背を向け発した言葉に思わず間の抜けた声が出る。
着いてこい、だと?

「お前らがここから出られて、ついでにうまい飯が食える所に案内してやる。」

『・・・・・・やれやれ、分かったよぉ。』

どちらにせよ逆らうという選択肢はない。依然としてラッドはあいつの腕の中だ。
それに、ここから出られるというのは信用出来ないが今は少しでも手がかりが欲しい。

「っと、名乗ってなかったな」

「俺はウォルター。英国王室に仕える執事だ」



「おーう帰ったぞリリー。」

ウォルターと名乗った男に案内されたどり着いた家は古い日本家屋。

『ここは?』

彼の手元から帰ってきたラッドを抱きしめながらそう問いかける。

「あん?俺の実家だよ。ちょっと待ってろ」

家の中からパタパタと足音が近づいてくる。

『お待たせしましたウォル君!お帰りなさい!!』

玄関から飛び出してきたのは笑顔の少女。
色は黒だが駆逐艦娘たちのようなセーラー服に身を包んでいる。

「ウォル君はやめろっての。つーか客だ客。飯の用意を頼む」

『あ、ごめんなさい!ちなみにもうお夕飯の準備は出来てますよ!』

「まじかよパーフェクトだなリリー」

『感謝の極み!』

『・・・・・・・・・』

目の前のやり取りを呆けたように見る。
まるで、家族のようなやりとりだ。
そして、少し物悲しくなる。今の私は兵器だ。
目の前のこんな光景は、いらない。

<・・・ッス。

思わずラッドをだきしめる腕に力が篭もり、心配させてしまったようだ。

『っと、ごめんなさい放置してしまって!すぐに食事にしましょう!』

リリーと呼ばれた少女にグイグイと腕を引かれる。

『え、いや、ちょっと待ってあたし食べるなんて一言も』

そうだ、何が入ってるかわからないものなんて食べられるわけが無い。
帰り道だけ教えて貰って…

「今日のメニューはなんだ、リリー」

『しめ鯖です!』

『御同伴に預かりまぁす!』
<えぇ・・・


キンクリ!


モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ
『・・・・・・くっ、殺せ!』
<バカっすねぇ・・・

思わず全て食べきってしまった。
しめ鯖の寿司なんて久しぶりだったのが悪いよー。

『ご満足いただけたようなら何よりです!食後のお茶とお土産用意してきますね!』

パタパタと少女が台所の方へと駆けていく。

「はっはっは、警戒心むき出しだった割にはすごい食ってたな」

ニヤニヤ笑いながらこちらをみる男。
一言文句でも言ってやろうか・・・!

「ダッツ食うか?」

『食べるぅ!』

こんなものに絆されたりはしない・・・!艦娘として決して屈するわけには・・・!

<アイス抱えてなければ格好付くんすけどねぇ

ラッド煩い。

「ま、いい息抜きになったんじゃねぇか」
「コソコソと色々やんのは疲れるだろ?」

目の前の男の言った言葉に、一瞬動きが止まる。が、飄々とした態度は崩したりしない。

『何言ってんのか分かんないなー』モグモグ

「そうか?俺も似たようなことやってるから、てっきり仲間だと思ったんだがな」

仲間・・・?一体何を言ってるんだこの男は。

「ま、勘違いなら聞き流して構わんがよ」
「誰かを欺くってのは大変だぜ?ずっと、その任が達成される迄欺き続けなきゃいけねぇ」

・・・・・・・・・。
<・・・・・・ッス。

「だからこそ先輩としてのアドバイスだ。誰を欺こうが構わねぇ。それがしなきゃいけないことならな」

「だがよ、自分自身だけは絶対に欺くんじゃねぇぞ。それをしちまったら、お前は誰も信用出来なくなっちまう」

少しだけ、悲しそうな瞳をしながらそういう男。
本当に何を言っているのやら。・・・そうだ、私には関係ない。
この男と私は違うのだから。だから、少しだけ感じるこの違和感は勘違いだ。

「ま、肝に銘じておけよ小娘」

『うっさいオッサン』

そう、悪態をつく。
それが精一杯だった。

「せめてお兄さんと呼べよ・・・」

『てかそのナリで執事?バーテンじゃなくて?』

「馬鹿野郎これは私服だ。」

『・・・・・・センスないねぇ』
<クソダサ

「なんか言ったかテメェら・・・!」ビキビキ



『お待たせしましたー!』

リリーが戻ってきたようだ。

『こちら、お土産です!庭で育てた白百合の花!』

綺麗な花だ。
しかし、どことなく不思議な気配も感じる。

『これって・・・』

『それはお守りにもなっています。貴女が迷った時、またここに来れるように。そして、ここから無事に戻れるように、と』

そう、少女は笑う。

『ウォル君に色々言われたと思います。彼は偉そうに講釈を垂れる悪癖があるので大変だったでしょう?』

容赦ないなこの子。

『ですが、彼なりに精一杯あなたの悩みを解決する手助けをしようとした結果です』
『そこは汲み取ってあげてくださいね?』

何故だろう。目の前の少女に申し訳なくされると、何も言えなくなる。

『べっつにー。気にしてない』
『ま、少しだけ心にとどめておくよ』

『ふふ、北上様は優しいんですね』

あっはっはー

『優しくなんてないよ。面倒ごとに関わりたくないだけでね』

そうだ。私はこれでいい。
これからもずっと、このままで居続けるんだ。

『ふふ、もうここに戻ってきてはダメですよ』

「せいぜい気張れよ小娘。」

彼女たちの言葉を背に受けながら、屋敷を後にした。



屋敷を出ると、そこは元いた場所だった。
さっきまでの森も、屋敷もどこにも見当たらない。

『・・・・・・・・・』ポリポリ
<どうかしたんすか?

『いや、何でもない。帰ろっか』
<そっすね!

何時と変わらない日々が始まる。
艦娘、北上の日常が。


『もう少し女の子には優しくしないとダメですよ?』

「ちょいまち。何でいきなり怒られてんだよ俺」

『貴方は昔から粗暴すぎます!余裕を持って紳士たれ。キャロル様もそう仰っていたではありませんか!』

「そうは言うがよ。こっちに帰省してる時くらいいいじゃねぇか。」
「ただでさえ今の英国はきな臭ぇんだし、疲れを取りたいんだよ・・・」

『悪魔(超人)で執事なんですからヘーキヘーキです!』

「何で俺に対してはそんなセメントなんですかねぇ!」
「あと、確かにプロレス技使えるがそういう意図はねぇぞその台詞!」

『こうすると喜ぶとクロエが・・・』

「あのクソ姉ぇ!!!!!!」

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます