『“おめでとう、スギモト・サイチ中佐、貴様は本日より大佐に昇格だ。”』
 
「は?」
 
 

 
不死身と呼ばれた男
 
 
 

「申し訳ありません中将殿、どうやら少し耳が遠くなってしまったようで、もう一度復唱をお願いしても?」
 
『“だからだ、貴様は本日……正式な辞令は此方に戻ってきてからになるが、大佐に昇格との事だ。”』
 
通信端末を投げつけたくなる衝動を抑え、軽く深呼吸をする。

「随分と性急な辞令ですな。まさかここにきて位が上がるとは思いませんでしたが。」
 
『“よく言う、今までの貴様の功績を見ればとうに将校になっていてもおかしくないというに、遅すぎたくらいであろう。
貴様が陸の人間だったのだとしてもだ。”』
 
よく言うはこちらの台詞である。
大方、推すに推したのは中将、彼女自身が動いたのだろう。
俺の何を見て評価に値するというのかまるでわからないが。
 
「で、何故今なのです?」
 
学園に生徒として入学し、新たなる脅威となるか偵察という体さえ見繕わなくなった左遷。
周りの若い連中を差し置いて俺に下ったその辞令を決めたのは大本営のお偉方である。
 
『“姫級が現れた”』
 
「…っ!」
 
深海棲艦、墜ちた艦娘達の成れの果てとも言われているが、実際の所は何も解っていない。
ただひとつ、人類を貪る明確な敵……となっている。
奴等の中でも位があり、イロハ級、鬼級、姫級との形態が確認されているが、世界が合一してからは確認が取れていなかったのだ。
 
『“大本営はこの新たに確認された姫級を戦艦棲姫と呼称することを決定した。
本来ならば、貴様をこちらに呼び戻そうと動きたいのだが、鶴見の奴めに先手を取られた。”』
 
「相変わらず仲がよろしいようで」
 
中将殿と大本営の鶴見大将の折り合いが悪いのは、彼等を知る者達にとっては周知の事実である。
 
『“貴様次言ったらファックな、まぁいい。……これより鶴見大将からの直令を下す、慎んで拝命せよ”』
 
「はっ」
 
『“…………”』
 
嫌な間だ、どうせ録な事ではないと思いつつも微かに希望だけでも持っていたいものであるが。
 
『“我ら海軍の力を他の世界の力と協同し、共通の敵となるであろう深海棲艦を撲滅するためにその力との架け橋を築け。
 
………復唱はいるか?”』

「いえ、鶴見大将の令、確かに拝命致しました。」
 
やはりというかなんと言うか、このタイミングでの俺の昇格、長時間による通信の許可。
ようは学生達に軍人紛いの事をさせろ。
有用な力を持った奴等をこちらに報告、誘導させろ…とのことなのだろう。

『“………こちらからの連絡は以上だ。そちらは何かあるか?』
 
「特には……はい、それでは」
 
通信を切り、溜め息をつく
冷蔵庫からツマミを取り出し、日本酒をグラスに注ぐ

 
“必要ならばこちらから人員を派遣することも可能だが”
 
 
ただでさえ面倒で微妙な立場なのだ。
これ以上は御免だと、言外に滲ませて断っておいた。

「やれやれ……どうしたものかね。」
 
一人ごちた彼の言葉に当然ながら返事は無く、どこの世界でも腐っている所は腐っていると認識させられる。
 
彼の物語はこの世界に行き着いてしまった時点で既に終わっている
世界にとっては後日談でありただのオマケである―――

ピーカタカタッ

 
 

ただのオマケ―――
 
カタカタッ
 
 
 
 
ただのオマケだったとしても、
 
 
カタカタッ…
 
 
彼は未だ諦めずあがき求める
 
 
カタカタカタカタッ……ターン
 
 
 
 
 
 
自分を光ある道へ繋げてくれた彼女達のために。

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