昨晩私は彼に別れを告げた。その匂いは耐え難い程であった。しかし、その香りが私と彼の愛というものを表しているようで
心地よさも感じた。この耐え難い愛、それが彼からの私への返礼だと感じると絶頂さえする。
これに対して私も返答したいと思い、強烈な香りをつけた風呂を用意した。
水で崩れかけた小さな体を、まだ抱きしめていたいからである。また、死人というものは思いがけない事に満ちている。
彼は私が彼の中に入り込む事を許し、その溶けて蝋の様に柔らかい身体へと私は身体を入れた。まさに包まれる様な心地であった。
これは別れを慰めようとする彼なりの気遣いだろう。私は彼をバスタオルに包んで乾かし、彼が生まれた時に着けていた首飾りや
パジャマを着せて、風呂の中の水で濡れて殆ど黒くなった金糸の様であった髪の毛を撫でて整えた。そうして最後に私は
彼を布でくるみ、背中に背負い彼との最後の散歩に出かけた。ゆっくりと惜しむ様に。
『貴方はここで生まれ、ここで死んだ。ここが貴方の生まれるべき場所で、死ぬべき場所であった。
でも、最後にもう一度だけ私は貴方と散歩をしたい。貴方はきっと受け入れてくれる』
そう言ったとき、彼が仕方ないなぁと言う様にゴポッと音を鳴らした気がした。ああ!貴方こそ私の愛しい人!
でもそんな人との別れが刻一刻と迫っていると心が重かった。『ああ、まだだ』と繰していた。

寮を出て、大きな門を潜ってしばらくすると噴水のある広場に出る。ここは男子寮と女子寮の中間地点にあることから
恋人達や異性間の友人同士、同グループの人間など様々な人が待ち合わせの場所として使用するところだ。
『ここが待ち合わせの場所、貴方と待ち合わせなんて初めてだね。これからお別れなんだけれど、貴方にここを知って欲しかったんだ
もしかしたらもう一度会えるかもしれないからね。ああ、でも…。うん、またね』
そういって私は万感の思いを込めて、消した。自室に戻るまで私はだれにも会わなかったが、会ったら困った事になるだろう
何故なら自室の鏡で見た私の顔は涙で溢れていたからだ。

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