ニコ「……………今日は誰も来ないか
   鳥でさえ来ないとなるとやることがないな」


そう呟いてフードを目深に被り銘のない墓石に座って身の丈はあるスコップを担ぐ
この青色のフードはお気に入りだが汚れが目立ちやすいのが欠点だ

父親から墓守を継いで1年足らず、俺は今日も変わらずに墓守をしている
墓守と言うのは墓を守るだけのものではなく墓から守るための者でもある、とは先代の言葉だ


??? 「こんにちはー誰かいませんかー
   あのー私ここにいるニコナクトさんに会いに来たんですけど」

コー「ニコならもう少し先で暇してるはずよ
   案山子の方がまだ可愛げがあるんじゃない?」

ニコ「………」


今日は誰も来ないだろうという淡い幻想はコーヴァニアの奴の登場で裏切られた
それはいいとしてもう片方は知らないな、こんな森の奥深くまで来るとは余程の用事だと見える

しかも墓に用事ではなく俺自身に用事と来た。知り合いでもない奴が来るなんて厄介事の気配だ
しかし客人な手前、開口一番帰れという訳にもいかない。茶葉の残りはあっただろうか


コー「いたいた、この風景と完全に同化してるせいで生きてるかも分からないのがニコだよ
   不健康そうな眼に肌してるせいであいつ自身がゾンビみたいでしょ?」

??? 「あなたがニコナクト・コノーさんですか?」

ニコ「………そうだが」

??? 「私と結婚してください!」


は?


ニコ「………は?」

コー「え?」

??? 「……」ニコニコ


フリーズしかけた思考を無理やり引き戻す。なんだこの女は頭がおかしいのか?
まほーりょくが大量にある奴か生粋のキチガイか…何にせよ関わらないに限る


ニコ「………帰れ。俺は貴様に用はない」

??? 「何で王子様!私とあなたは結ばれる運命なんだよ!」

コー「ちょ、ちょっと待って!あなたこんな男のどこがいいの!?
   確かに見てくれはいいし家庭的だけど中身最悪だよ!やめたほうがいいって!」

こんな男「………」

??? 「私は夢の中で一目見たときに思ったの!
   この人が運命の人で私と結ばれるんだって!」


なんだこいつは、頭の中がお花畑なのは分かったからとっとと消えてもらいたい
いや俺が消えればいいのか、少し街に出かけて買い物でもするとしよう





コー「ニコもしっかり拒否したらいいのよ!
   そんなだからいつまでたっても私が世話焼く事になるんだし」

ニコ「………悪意無い相手を無下に扱うのも問題だろう
    何にせよ本人のいる前でする話題ではないな」

ニス「…………zzz」


どうせ眠ってるからいいじゃんと思いながらも一理あるので口をつぐむ
あの日からというものニスノアと名乗った女はニコの家に入り浸って眠っている

衝撃発言をした割にその後は特に何もせず眠ってばかり……
この子は何がしたいんだろう?まほーりょくが高い人の考えることは分からない


ニコ「……あと言わせてもらうが面倒を見ているのは俺の方だろう
   貴様に何かやってもらった記憶がないんだが」

コー「そんなデリカシーのないこと言わないの!
   ほ、ほら私は保護者だからいるだけで世話焼いてるの!それに人付き合いは私がやってるし!」

ニコ「………そうか」

コー「ほらそろそろニスノアも起きる!ご飯出来てるから冷めないうちに食べないと!
   別に皆で食卓を囲みたいとかそういう訳じゃないけどニコが悲しい目をするから!」

ニス「うーんおはよう…もうちょっとしたら起きる」

ニコ「………今日のスープは自信作だ
   庭で採ったトマトをじっくり煮込んでるから美味いはず」

ニス「食べる!食べます!」


全く現金で単純な子だなあと苦笑い
3人で食べる食事もすっかり習慣になりつつあるのが時の流れを感じさせるね

一口スプーンですくってスープを飲むとトマトのまろやかな味がした。美味しい
隠し味のこれは……ふむふむレモンだね
また違った種類の酸味がかえってタマネギやピーマンと言った野菜の甘さを引き立ててる
私も料理が出来ないわけじゃないけど上手な人に任せるのが一番だ


コー「聞いて聞いて、ニコったら同窓会に出ないって言うんだよ
   人付き合い悪いと思わない?折角連絡が回ってるのにさ」

ニコ「………」

ニス「気軽に話せる友達がいないなら行っても辛いだけじゃない?
   それよりも引きこもってたい気持ちは分かるな」

コー「それだと私がいなくなったらもっとダメ人間じゃん!
   真人間になるためには強制的なかかわりも必要だと思うの」モグモグ

ニス「コーは心配性の世話焼きだね!」

コー「はあ?そういうんじゃないし!何でこんな根暗の面倒見なきゃいけないの!
   私はここに来たら美味しい料理がタダで食べれるから来てるだけ!」

根暗「………さっき保護者だの世話焼いてるだの言ってたが」

コー「五月蠅い馬鹿!デリカシー0!」


別にあいつが心配でここに来てるわけじゃないし!
世話焼いてるのだって嫌々だし話し相手になるのだって暇つぶしだし……
何で一人でこんな言い訳考えなきゃいけないんだろう、苛々したからニコにデコピンをした

机の上のマーガレットはそんな賑やかな私たちをおいて蕾を膨らませている
うん、私はそれでもいいんだって。この恋心は墓の下まで持って行く。
私は世界で一番、誰よりも幸せな灰になって笑いながら消え去っていくんだ。





ニコ「………」


雪がはらはらと降る中、フードを目深に被り銘のある墓石の上で少し伸びをする
白い吐息を吐くとザクザクと愛用のスコップで土の表面を掘り返して慣らし始めた
パッと見では墓荒らしに見える行為だが毎日行っていると雑草が生えなくなる気がする
作業を終え無言で墓石に座っていると向こうの方からニスノアがやって来た


ニス「こんにちは王子様、今日も遊びに来たよ」

ニコ「……なら何時もの様に部屋で寝ていろ。食事は後で作る
   昨日は街に出て豚肉を買ったから楽しみにしていろ」

ニス「街に出てたんだ?ここ数日来れなかったからね
   でもコーはまだ来てないんだ、もう昼なのに珍しい
   私は週3でここに来てるけどあの子毎日来てるでしょ?」

ニコ「………いや、もうとっくに来ているぞ」

ニス「そうなの?でも家にはいなかったし墓地にもいないよね」

ニコ「………目の前にいるだろう、ここだ」


そう言ってぽんぽんと2度、座っている墓石を軽く叩く
表面に刻まれた文字が見えづらいだろうからついでに張り付いている雪を手で払った
そうか成る程こいつは何も知らなかったんだな。


『コーヴァニア・ヨーク ここに眠る』


コー「え、う、嘘だよね?
   だってついこの前まで元気だったじゃん!なんで!」

ニコ「………元から余命1年の心臓病だ
   死んだら俺がいつも座っている墓に埋めてほしい、と」

コー「そ、そうだ生き返らせればいいんだよ!
   私なら出来る!私だって眠ってばかりじゃあ……」

ニコ「…………おいやめ」


制止が遅かったせいで突然コーヴァニアが蘇って目の前に現れた
その光景はまるでギャグマンガか何かのようで、在り得ないくらい現実味がなかった。
まほーりょくさえあれば何でもできる、そんな荒唐無稽な話だ

その時に俺が感じたことは怒りでも喜びでもなく憐憫と納得だった
墓守は墓から人を守るもの。墓に入れておくことで死者と生者の未練や境界を分ける役目なのだと

蘇ったコーヴァニアは一言も喋ることなく踵を返すと走って森の中へ消えていった。
薄雪の上に点々と足跡を付けているので追い駆けることは容易だろう
走り方がぎこちないのはゾンビであるからだろうか。


ニス「いや違うの、私はもう一度3人でいたくてその」


そろそろ潮時かと俺はフードを外してスコップを地面に刺した
ただただ目の前で絶望しているニスノアが哀れだった、だから柄にもなく喋ってやる


ニコ「………俺は貴様の王子様じゃない」

ニス「え?」

ニコ「結局のところ貴様は最初から最後まで俺達を見ていないんだ
   楽しいから一緒にいる、王子様だと思ったから告白する、嫌だから生き返らせる
   そこに相手は存在しないしどうでもいい。現にコーヴァニアの余命も知らなかっただろう?
   貴様が恋をしていたのは俺じゃなく王子様だ、恋に恋していただけで俺の存在は必要ない」

ニス「そんなことない!私は二人の趣味や好きな食べ物だって知ってる!
   ちゃんと見ている!決して独りよがりなんかじゃあない!」

ニコ「なら俺の両親の名前は?コーヴァニアの住んでいる家は何処だ?
   貴様が知っているのは普段の生活から手に入る情報だけだ
   俺は貴様に出自も家族も友人も何故墓守なのかも聞かれたことはない
   もう一度言おう俺は王子様じゃない、ただの墓守だ」


そこまで言うとニスノアは涙を堪える様にして走り去ってしまった。よく走る友人達だ
彼女の足跡はコーヴァニアと逆方向、森の出口へ向かって一直線に伸びている。

さてここで究極の2択、一体どちらを追いかけるかだ
これがゲームならルート選択とかの類なんだろう。後を追えるのは二者択一2つに1つ
両方を追いかけることはできない。どちらかに会えばもう片方には会えない


ニコ「………さて」



 

始まりは宇宙船を作るところから。カンカンとハンマーで組み上げて一人用のロケットを作る
真っ暗なロケットに乗り込むとグングンと加速して空の彼方へ
すぐに地球は見えなくなって満天の星空を抜群の運転センスで進んでいく
無重力や宇宙食を一通り楽しんだらいよいよ自然豊かな星に着陸。
ロケットのハッチを開けるとそこには物珍しげな顔をした人達がたくさん
そんな中、王子様が一緒にお城の舞踏会に行こうと手を差し伸ばしてきて…


ニス「………」


そしていつもここで目が覚める、暗い暗い部屋の中で体を丸めて起こすとため息をついた。
結局逃げ帰った後で部屋に閉じこもり、丸一日悩んで眠っていたんだっけ

ずっと考え込んでいた割に答えが出なくて、どうしていいか分かんなかったから取りあえず寝て。
今何時だろう?二人にどんな顔して会えばいいんだろう…そもそも私が合う権利なんてあるのかな


ニコ「…………起きたか、カーテンは開けるか?」

ニス「うおわっひゃああああい!!」

ニコ「………寝起きなのによく大声を出せるな」

ニス「何でここにいるの?ここ私の部屋だし勝手に入ってこないでよ!」

ニコ「………親御さんに事情を説明して通してもらった、無許可ではない」


呆れて物も言えない、いきなり押しかけてくるなんてどうかと思うよ私
そもそも一日ずっと放置して今更来るなんてどんな了見だよ!
部屋の中が暗くって何も見えないせいで泣き顔を見られてないのは助かったけど


ニス「何で今更来ちゃったのさ、昨日すぐ追いかけてこなかったくせに
   コーの方を追いかけたんでしょ?ならそれでいいじゃん……」

ニコ「……誰しも一人で考えたい時はある、すぐに追いかけたら悪いだろう
   俺はあの後何もせず墓地でいつも通り座っていた」


うん好きな人に追いかけてもらいたい乙女心を分かってないなこの人
本人は真面目な顔をしてるせいで説明する気力も失せちゃった


ニス「分かった、それで何の用?もう私の顔も見たくないかと思ってた」

ニコ「……小難しいことはいいからコーヴァニアに謝りに行くぞ
   悪いことをしたら謝る、小学生でもわかる単純な道理だ」

ニス「謝るってどんな顔して会えばいいのさ」

ニコ「………真顔でいいんじゃないか?ふざけた顔しなければいいだろ」

ニス「ねえ、私は許してもらえるのかな?
   また一緒に笑って過ごせるようになるのかな?」


今なら分かる、私はきっと取り返しがつかないことをしたんだって
なんで悪い事なのかは分からないけど、それでも私が悪いのは1日考えてやっとわかったんだ


ニコ「………そんな事俺が知る訳ないだろう
   喋っている暇があったらとっとと謝罪に行くぞ」


ニコがドアを開けると闇に覆われた部屋に眩しいほどの光が入って来る
その煌く姿はまるで王子様のようでとても幻想的だった。
だと言うのに彼が来ている服は質素で、愛想なんて一切なくて
これから行うのはお城の舞踏会でなく森の奥の石造りの家での謝罪という夢も希望もない話だけど

でもそれでいいと思った。だって目の前の彼は王子様じゃなくてただの墓守なんだから
今度はちゃんと3人で一緒に、もう一度最初からやり直そうと思う。

































イチカ「そういえばニコさんってなんでお嫁さんが二人もいるんですか?」


リズ「お父さんは俗に言う二股で浮気性の生きている価値もない屑野郎だからね!」


ニコ「……頼むから触れてくれるなリーズマイト、イチカ」



彼は今日も墓守を続けています

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