私「ええっと…ここはどこ?私は誰ですか?」

???「ここは東京の町田……今は砦かな?
   そして君が誰かって言うのは僕の方が知りたいんだけど……」


古典レベルの台詞を吐いて辺りを見渡すと…研究所?え?何?
と言うか目の前の人は誰?研究者?私記憶喪失?ここどこ?
これから実験されるの?解剖?殺されちゃうの?


私「う…うぅ……ぐす……」

???「お、落ち着いて下さい。とりあえず外行こうか、ね!」

私「うっ……ひぐっ…ひっ……」コクコク

???「研究の弊害?いやそんなことはないはずだし……
   えっとどうしようこれ、僕どうすればいいんだろう?」

私「私が分かるわけないじゃないですか!」

???「あっいや今のは独り言っていうか……
   ほら星!星が綺麗だから見て!」


今でも忘れない、その日は静かな夜で冷たい風が穏やかに流れていました
肌を刺すそれはふわりと私の体を通り抜けて研究所へと向かいます
そのまま風下にある沢山の建物へと流れ込んで…

でもその時の私はそんなことよりも目の前の光景にとらわれていました
何処までも深く深く澄んだ暗闇に向かって白い吐息を吐き一言


私「綺麗……」

???「うん、ここから見える夜空はこの砦で一番綺麗なんだ
   まるで世界の全てがここに詰まっているかの様でしょ?」

私「ここは世界の中心なの?それにしては星以外に綺麗なものはないんですけど」

???「当然だけど緑はないよね、そもそもここら辺は僕の研究所以外は何もないし
   でもそれを補って余りある星空だと思うよ、うん」

私「確かに星がこんなにも綺麗なら他の事はいいかもね
  初めまして私は記憶喪失だよ。よろしくお願いします」

???「初めましてだね、僕の名前は…」

おおいぬ座に流星が1つ流れた出会いの夜の事
私につけられた名前はシリウス。この青年の名前は結城 悠
世界に何の影響も与えない小さな小さな出会いでした



悠「それがどうした!シリウスがEOHだから何が変わるって言うんだよ!
  お前達だってこの2年一緒に過ごしてきただろう!」

???「ならお前はっ!そのせいでこの砦にいる全員が死んだらどうする!
   責任を取れる取れないの問題じゃあないだろう!」

悠「五月蠅え!こいつを殺すってんなら僕が連れて全力で逃げ回ってやる!
  道理も理屈も知ったことか!やると言ったらやるぞ僕は!」


その時の私は隅で座っている事しか出来ませんでした
だってどう考えても逆槻の言ってることの方が正しくて
私は言われた通りEOHで、生まれてきたこと自体が間違いで

私はここで死んでも後悔はなかったんです
だって最初は0でただそこに戻るだけなんだから
名前も思い出も経歴も初めからないんですし消えることに恐怖はありませんでした


逆槻「この砦にいる3402人全員んなこと分かってんだよ!
   だが俺は全体の益を考えなくてはいけないんだ!」

悠「意見が平行線なら殴り合いしかないよな!
  勝ったほうが負けた方の言うことを聞くいつもの!」

逆槻「俺に勝ったことない癖に言いやがる!
   もやしの研究者に負けてたまるかよ!!」


あ、勝負は私も参加しての2対1だったのであっさり勝ちました
真剣勝負の世界に卑怯も何もないのです
そうは言っても私も生き残れるなら生きていたいですし


砦の皆は思ったより私がいることをすんなりと認めてくれました
生まれてからの2年間は無駄じゃなかったんだって、思ったより私は好かれていたんだなって
そんなことを思ったらまた涙が出てきました、でも彼は私のことをどう思ってるんだろう



その日も私は幸せで、出来ることならずっとこのままで、と
流星に向かって3度唱えてみるけど失敗してしまいました


悠「今年の冬祭りも楽しかったね
  ちょっと羽目を外し過ぎた気もするけどさ」

私「そうですね、来年のお祭りも今年以上に楽しくなればいいな」


こんな狭い世界で2人寄り添う帰り道
こうしているだけでずっと生きていける気がする
顔が赤いのは寒さでかじかんでいるからでしょうか?


私「ねえ悠、あのさ魔法って信じますか?」

悠「信じるも何も現に猛威を振るっているじゃないか」

私「そうじゃなくって私が魔法を使えるってことだよ
  今から私が流れ星を降らす一大魔法を見せてあげます」


もしも魔力を持たないこんな私が魔法を使えたら
都合よく夜空に流れ星が煌く奇跡を起こせたならって


悠「星落とし?まるで世界を滅ぼす悪役みたいな魔法だね」

私「そういうこと言わないの、じゃあ行きます
  3,2,1……えいっ!」


夜空に腕を振り上げびしっと指さして数秒


悠「やっぱり何も起こらないね」


私に魔法は使えませんでした
私に奇跡は起こせませんでした


私「あはは、やっぱり無理だったね
  もしかしたらと思ったんですけど」

悠「別に期待してなかったからいいよ
  もう夜も遅いし早く帰ろうか」

私「期待してないって酷い言い草ですね
  これでも私なりに頑張ってみたんだよ」

悠「ごめんね、でも今までの様子からして期待は出来ないって」


そう言って私の隣に並んでまた研究所へと歩きだします
でも、その、あの、手を握ってるのは何でですか?
これはもしかしてもしかするの?えっとえっと静まれ心臓!


悠「あのさ、僕さ実はずっと前から……」


顔が真っ赤になって冬なのに汗が止まりません
顔を直視できなくなって思わず斜め上に顔を背けてみる
するとおとめ座の方に一筋キラリと流れ星、遅いんですよ全く


私には魔法は使えませんでした
私には奇跡は起こせませんでした


星が瞬くそんな冬の日の事でした

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