それは少し肌寒さを感じ始めた秋のこと。13歳になった誕生日に、冒険者学校に行きたいと孤児院の先生に伝えた僕は、その翌日に院長先生の部屋に招かれて、
『結論から言えば、貴方の神賽学園受験には反対よ、ホルケウ』
そこで伝えられた言葉は、僕の夢を明確に否定するものでした。



正直に言って動揺してる。そもそも、こんな凛とした表情の女性を僕は知らない。
いつもぽやぽやしてて、この孤児院どころか、この世界で一番偉い神様の癖に、子供の世話してるんだか、世話されてるんだかよく分からない人。それが我らが院長先生のはずだ。
けれど、真っすぐに、力強く此方を見つめてくるその瞳は、紛れもない親代わりの人のそれで、つまり、僕の夢は、一番に応援してくれるであろう人に否定されたわけで。
「理由を、教えてください」
『貴方には向いていないからです』
震えた声で絞り出した短い問いかけは、同じく短く、それでいて強い意志のこもった言葉で返された。

「簡単じゃないのは、分かっているつもりです。それでも、挑戦する前から諦めるのは・・・・・・」
『ああ、ごめんね。少しばかり言葉が足りてなかったわ。貴方は、冒険者には向いていないから諦めなさい。そう言いたいのよ、私は』
つまり、神賽学園だけでなく、冒険者になること自体反対だと、彼女は言うのだろうか。確かに、今の自分には何もかも足りていないだろうが、だからこそあの学園に・・・・・・
『違う違う。ああもう、どう言えば伝わるかしら・・・・・・強さも、知識も、勇気も、大した問題じゃあないのよ。貴方は真面目な子だもの。足りない分は、ちゃんと頑張って身に着けることができるわ』

『神賽学園に行くには、冒険者を目指すには、貴方は致命的に優しい・・・・・・・。うん、この表現が一番正しいかしら』

僕は今、褒められているのだろうか、貶されているのだろうか、よく分からなくなってきた。そもそも、優しいことはいいことではなかろうか。

『ええ、勿論良いことです。貴方が優しい子に育ってくれて、私は本当に嬉しい。でもね、ホルケウ。貴方の優しさは、貴方を守ってはくれないのよ』
『誰かを助けられるようになりたい。貴方は昨日、冒険者を目指す理由を話してくれたわね。そう思えることはとても素晴らしいことだし、先生として、神様として、親代わりとして、できる限りの力になってあげたい』
『でも、冒険者は駄目。友達同士のささいな喧嘩で心を痛める貴方は、救えても救えなくても、勝っても負けても、強くとも弱くとも、ずっと傷つき続けるでしょう』
『冒険者という存在が見る世界は、貴方には広すぎる。だから、私は貴方を止めなくてはいけないの』

ハッキリ言って、院長先生の言うことはピンとこない。きっと辛いことが沢山あるのは事実だろう、それでも、歯を食いしばって、困難に立ち向かう意思と力を持つのが冒険者ではないだろうか。
向いている、向いていないという相性は変えられなくとも、変えられないなりに頑張ることだってできるはずだ。

『ええ、その通り。そして、貴方にそれができないとも言わないわ。だけど、今の貴方が抱いているのは、覚悟ではなくて、妄執よ。そうしたい、ではなく、そうしなくてはならない、で動いているように見えるの』

『ハッキリ言うわね。死んだ家族に捕らわれるなとは言わない。けれど、それだけで生きていては貴方は幸せにはなれないの』












「えっ」
『えっ』
先生の表情とか、僕の緊張感とか、場の空気とか、色々なものが弛緩していくのを感じました。










つまり、僕は死んだ家族への弔い的な、すっげぇ後ろ向きな理由で冒険者目指すと思われてたわけで。うん、そんな奴居たら僕もとりあえず一旦止めてから落ち着かせるわ。
『だ、だって貴方の過去的にそう思っても無理ないでしょ!?というか、そうでなくても冒険者に反対なのは変わらないのよ!?』
どうしよう、さっきまで神様オーラ全開だった先生がコタツムリになってしまわれた。いや、シリアスな雰囲気で思いっきり節穴ムーヴしてたら、そうなりたくもなるだろうけどさ。
あと、孤児だって点を全力で抉るのやめーや。流石に3年経てば慣れるけど、泣くぞコラ。

『そ、それはごめんね・・・・・・』
『で、でも、私が納得できる理由が無い限り、意見は変わらないわ!!さあ、貴方が冒険者になりたい・・・いいえ、人を救わんとする、その理由を叫びなさい!!』
ダメだ、これ面倒くさいテンションの時の先生だ。仕方がない、何故人を助けたいかについては恥ずかしいから、言いたくなかったけど

「――――――――」

『・・・・・・そう、なら大丈夫ね。貴方はきっと頑張れる』
そう言った先生の顔はいつも通りの柔らかい笑顔に戻ってて、僕は受験戦争の参加資格を得られたのだと、胸を撫で下ろしたのだ。

その後、神様式ブートキャンプで過労死しかけたり、強い男は言葉からだと口調を変えさせられたりと、地獄の受験勉強が始まるのは別のお話し。





あの嵐の夜に、大好きだった家族とは永遠に離れ離れになってしまって。

僕らを助けようとしてくれた人たちは、疲れと諦めのため息をついていて。
世界の中心では、また取りこぼしてしまったと神様は泣いていて。

絶望だらけの夜で、何故か生き残ってしまった自分も死んでしまいたいと思ったのは事実だけど。

まだ生きてると、僕を背負って必死に走った人の歓喜の雄たけびを聞いて。
生きててくれてありがとうと、やっぱり泣いてしまう神様に抱きしめられて。

命がそこにあるだけで湧いてくる希望もあるのだと知った僕は、同じ絶望に沈む誰かにも、それに気付いてほしくて仕方ないのだ。

・・・・・・うん、やっぱり言葉にすると恥ずかしい。

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