最終更新:ID:wLhBjrIy/Q 2017年08月05日(土) 22:13:41履歴
白百合のマヨヒガ
マヨヒガ、それはとある国で伝わっているとある伝承。訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家のことである。
ここ、神賽島世界においてもその噂は形を変えて広まっている。
「その家に迷い込むと一人の少女によって歓待され、美味しい食事を提供される」
「そして去り際に白百合の華を手渡され、元いた場所へと返される。」
今日もまた一人、マヨヒガに客が訪れる。
道に迷い、疲れた客が。
(1)修羅場青年の場合
「身から出た錆とはいえ、今日も酷い目にあった…」
肩を落とし、そう呟くのはリンク・フリードリッヒ青年。
セイバー顔の美少女2名から熱い視線と業火のような嫉妬を背中に受ける好青年である。
「はぁ・・・」
その後ろ姿はまるで家に帰って居場所がないサラリーマンのようで。
とぼとぼ、という擬音がぴったりと当てはまっている。
「・・・・・・あれ?俺、こんな所歩いてたっけ」
ふと、彼が顔を上げるとそこは深い森の中。先程まで歩いていた町並みはなく、巨大な木々が生い茂っていて木漏れ日が差し込む程度の明るさしかない。
「えぇ・・・(困惑)。IDカード、って圏外だ。」
「ここはどこなんだ・・・?」
周囲をキョロキョロと見渡すが人の気配どころか獣の気配すら感じない。
風にざわめく木々の音がするだけである。
そして、気のせいかもしれないが少しばかり空気が澱んでいる。
まるで、身体が何かに汚染されているようにも感じてしまう。
「・・・少し疲れてるせいか体も重い。どこか腰を落ち着ける場所でもあればいいんだが」
『もしかして道に迷ったのですか?』
「!?」
突然に聞こえた声に思わず武器を手に取り、声の聞こえた方向に突きつける。
彼が振り向いた先には黒いセーラー服に身を包んだ一人の少女。
彼女は武器を突きつけられているというのにそれを全く気にしていない。
『ビックリさせてしまってごめんなさい。たまにいるのですよ、この森に迷い込んでしまう方が』
『ここは近くにある巨大な毒沼の影響が強く、耐性のない生物にとっては本当に毒でしかありません。』
そう語る彼女はどうやら影響を受けていないようだ。
一体全体どうしようか、そう考えていると少女は邪気を感じさせない笑顔で。
『よければ、我が家で休んでいきませんか?』
「えっ?」
そういうことになった。
『どうぞどうぞ。何も無いところですが』
彼女に案内をされた家は古民家、と呼ばれるのがふさわしいそれなりに広い屋敷だった。
居間に通され、
『お茶を入れますので座って少しお待ちくださいね!』
彼女に促されるまま畳の敷かれた部屋で座布団の上に腰掛ける。
「・・・・・・不思議な場所だ」
森の中にこんな大きな屋敷があるのもそうだし、落ち着いた気持ちになる。
「ん?」
ふとそばにあった机の上に視線を向けるとそこには幾人かの子供と三人の女性、そしてその中央にいるのは。
「この人、どこかで見たことあるような・・・?」
頭にモヤがかかったかのようにその姿を思い出せない。
頭をぶんぶんと振り、モヤを払おうとしていると。
『お待たせしました!ついでに食事もご用意しましたよ!』
彼女の声に気を取られる。
そして、自分が昼から何も食べてないことを思い出した。
「えっと・・・、食べてもいいのか?」
遠慮がちにそう聞くと。
『はい!そろそろあの娘も帰ってきますし!』
「あの娘?」
そう問いかけるのと同時に屋敷の玄関の方から音がする。
『あら、お客さん?珍しいこともあるのね』
『おかえりなさい、クロエ。ちょうど食事の用意もできてますよ!』
クロエ、と呼ばれた少女。幼いながらもどこか大人っぽさを感じる褐色の肌の少女だ。
『そ、なら食べちゃいましょ。今日は私だけなんでしょ?』
『はい・・・、ほかの皆様はお帰りになれないようで・・・』
『ほーら。お客様もいるのにそんな顔しないの!ごめんなさいね?』
そう、彼女に視線を向けられる。
「いや、気にしなくて構わないさ。」
彼女の持ってきた料理はどれも美味しそうだ。
謝罪を受け入れるよりも、今は食欲の方が勝る。
『ありがと。じゃあ席について』
「『『いただきます!』』」
キング・クリムゾン!食事後!
「美味しかった・・・」
結局、満腹になるまで食べてしまった。
『お粗末さまでした!それじゃ、お土産を用意してきますね!』
セーラー服の少女。リリーと呼ばれていた彼女はパタパタと台所へとかけていく。
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・』
そして、残されたのはクロエと自分。
目の前に置かれたお茶へと手を伸ばす。
正直、何を話していいかわからない。冷静に考えると、素性も知らない相手なのだ。
警戒してしかるべきなのに、何故かその気が起きない。
自分でもおかしいと思うが、何なのだろうか。
『ねぇ、ひとつ聞いてもいいかしら?』
彼女がそう声をかけてくる。
「内容によりますけど・・・」チビチビ
『簡単なことよ。貴方、彼女さんがいるでしょ。しかも複数人』
「っ!ゴホッゴホッ」
なぜ分かったのだろうか。思わずむせてしまう。
『あはは、図星みたいねー。何となくの勘だけど、馬鹿にしたもんじゃないか』
「だ、だからと言ってなんだと言うんですか!」
噎せた息を整えながら彼女にそう問いかける。
そんな自分を見ながら、クスクスと笑い。
『平等に愛を注ぐ、というのは簡単なことじゃない。一人でも抱きれずに零れ落ちてしまう人もいるんだもの。』
『大事にしてあげなさい?エゴで、女を傷つけるのはいい男の条件ではないわよ?』
そう、優しく諭すような言葉をかけられた。
「なぜ、そんなことを?」
『少しばかり知り合いに似た空気を感じたからよ。それと、イイ女としてのアドバイス』
『受け取っときなさい?』
「・・・・・・はい」
何となく見透かされたような気持ちになり、居心地が悪い。
ついと視線を庭の方に向けると。
『お待たせしましたー!お土産を、ってん?なにかお話してました?』
ちょうど同じタイミングでリリーがやって来た。
その手に持っているのは、白百合の華。
「それは?」
『これはお土産でお守りです!帰り道に迷わないように、という願いも込めてます!』
彼女から差し出されたそれを受け取り、胸ポケットにいれる。
綺麗な花だ。丹精込めて育てられたのだろう。
「ありがとう。食事までご馳走になってしまって」
『お気になさらず。私は、私たちは悩める人の悩みを晴らすお手伝いをするためにここにいます。』
『故にマヨヒガ、迷いを避ける家。です!』
屈託のない笑顔に、思わずこちらも笑みがこぼれる。
「少し、考えてみる。そして、答えを出していくよ」
と、答えると同時に意識が遠のいていく。
だが、不快ではない。どこか心地よい眠りに落ちるような、そんな気分だ。
『願わくば、もう貴方がこの家に迷い込まないように』
『彼女たち、大切にしてあげなさいよー』
最後に聞こえた二つの声は、そんなことを言っていた気がした。
「ん・・・・・・?」
ゆっくりと目が覚める。
どうやら歩き疲れて眠ってしまったらしい。
「よし!グダグダ悩む前に帰ってあの子達に会おう!」
不思議と眠る前よりも体が軽く、気持ちも穏やかだ。
覚えていないが、いい夢でも見ていたのだろうか。
早く帰ろう。そして、あの子達を大切にしよう。
その胸ポケットには、いつの間にか白百合の華が刺さっていた。
『お疲れ様、リリー。』
『はい、クロエもご協力ありがとうございました!』
『ねぇ、私あの子どこかで見たことあるんだけど・・・』
『フリードリッヒ家の方ですからね。きっとその時に』
『なるほど。・・・女難の相もあの人譲りなのねー』
『あはは、まあ当人達が幸せならいいのではないでしょうか』
『それもそっか。ところでヴィル兄や潤ちゃん、ウォル君は最近帰ってきたの?』
『近いうちに皆さん帰ってくるらしいですよ。皆さん別々に、ですが』
『あら、そうなの?だったらまた迷い込む人がいるかもしれないわね』
『ふふ、その時は精一杯おもてなしをして上げましょう』
『本当に真面目ねー。さて、私はグランパたちにでも会ってくるわ。』
『御主人様たちもお忙しいのですから、邪魔はダメですよ?』
『ちょっと発明の相談に行くだけだから・・・!』
『・・・・・・・・・これはダメかも知れませんね』苦笑
そこはマヨヒガ。
迷い、疲れた人を癒す場所。
今日もまた、一人の少女が誰かの疲れを癒しています。
マヨヒガ、それはとある国で伝わっているとある伝承。訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家のことである。
ここ、神賽島世界においてもその噂は形を変えて広まっている。
「その家に迷い込むと一人の少女によって歓待され、美味しい食事を提供される」
「そして去り際に白百合の華を手渡され、元いた場所へと返される。」
今日もまた一人、マヨヒガに客が訪れる。
道に迷い、疲れた客が。
(1)修羅場青年の場合
「身から出た錆とはいえ、今日も酷い目にあった…」
肩を落とし、そう呟くのはリンク・フリードリッヒ青年。
セイバー顔の美少女2名から熱い視線と業火のような嫉妬を背中に受ける好青年である。
「はぁ・・・」
その後ろ姿はまるで家に帰って居場所がないサラリーマンのようで。
とぼとぼ、という擬音がぴったりと当てはまっている。
「・・・・・・あれ?俺、こんな所歩いてたっけ」
ふと、彼が顔を上げるとそこは深い森の中。先程まで歩いていた町並みはなく、巨大な木々が生い茂っていて木漏れ日が差し込む程度の明るさしかない。
「えぇ・・・(困惑)。IDカード、って圏外だ。」
「ここはどこなんだ・・・?」
周囲をキョロキョロと見渡すが人の気配どころか獣の気配すら感じない。
風にざわめく木々の音がするだけである。
そして、気のせいかもしれないが少しばかり空気が澱んでいる。
まるで、身体が何かに汚染されているようにも感じてしまう。
「・・・少し疲れてるせいか体も重い。どこか腰を落ち着ける場所でもあればいいんだが」
『もしかして道に迷ったのですか?』
「!?」
突然に聞こえた声に思わず武器を手に取り、声の聞こえた方向に突きつける。
彼が振り向いた先には黒いセーラー服に身を包んだ一人の少女。
彼女は武器を突きつけられているというのにそれを全く気にしていない。
『ビックリさせてしまってごめんなさい。たまにいるのですよ、この森に迷い込んでしまう方が』
『ここは近くにある巨大な毒沼の影響が強く、耐性のない生物にとっては本当に毒でしかありません。』
そう語る彼女はどうやら影響を受けていないようだ。
一体全体どうしようか、そう考えていると少女は邪気を感じさせない笑顔で。
『よければ、我が家で休んでいきませんか?』
「えっ?」
そういうことになった。
『どうぞどうぞ。何も無いところですが』
彼女に案内をされた家は古民家、と呼ばれるのがふさわしいそれなりに広い屋敷だった。
居間に通され、
『お茶を入れますので座って少しお待ちくださいね!』
彼女に促されるまま畳の敷かれた部屋で座布団の上に腰掛ける。
「・・・・・・不思議な場所だ」
森の中にこんな大きな屋敷があるのもそうだし、落ち着いた気持ちになる。
「ん?」
ふとそばにあった机の上に視線を向けるとそこには幾人かの子供と三人の女性、そしてその中央にいるのは。
「この人、どこかで見たことあるような・・・?」
頭にモヤがかかったかのようにその姿を思い出せない。
頭をぶんぶんと振り、モヤを払おうとしていると。
『お待たせしました!ついでに食事もご用意しましたよ!』
彼女の声に気を取られる。
そして、自分が昼から何も食べてないことを思い出した。
「えっと・・・、食べてもいいのか?」
遠慮がちにそう聞くと。
『はい!そろそろあの娘も帰ってきますし!』
「あの娘?」
そう問いかけるのと同時に屋敷の玄関の方から音がする。
『あら、お客さん?珍しいこともあるのね』
『おかえりなさい、クロエ。ちょうど食事の用意もできてますよ!』
クロエ、と呼ばれた少女。幼いながらもどこか大人っぽさを感じる褐色の肌の少女だ。
『そ、なら食べちゃいましょ。今日は私だけなんでしょ?』
『はい・・・、ほかの皆様はお帰りになれないようで・・・』
『ほーら。お客様もいるのにそんな顔しないの!ごめんなさいね?』
そう、彼女に視線を向けられる。
「いや、気にしなくて構わないさ。」
彼女の持ってきた料理はどれも美味しそうだ。
謝罪を受け入れるよりも、今は食欲の方が勝る。
『ありがと。じゃあ席について』
「『『いただきます!』』」
キング・クリムゾン!食事後!
「美味しかった・・・」
結局、満腹になるまで食べてしまった。
『お粗末さまでした!それじゃ、お土産を用意してきますね!』
セーラー服の少女。リリーと呼ばれていた彼女はパタパタと台所へとかけていく。
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・』
そして、残されたのはクロエと自分。
目の前に置かれたお茶へと手を伸ばす。
正直、何を話していいかわからない。冷静に考えると、素性も知らない相手なのだ。
警戒してしかるべきなのに、何故かその気が起きない。
自分でもおかしいと思うが、何なのだろうか。
『ねぇ、ひとつ聞いてもいいかしら?』
彼女がそう声をかけてくる。
「内容によりますけど・・・」チビチビ
『簡単なことよ。貴方、彼女さんがいるでしょ。しかも複数人』
「っ!ゴホッゴホッ」
なぜ分かったのだろうか。思わずむせてしまう。
『あはは、図星みたいねー。何となくの勘だけど、馬鹿にしたもんじゃないか』
「だ、だからと言ってなんだと言うんですか!」
噎せた息を整えながら彼女にそう問いかける。
そんな自分を見ながら、クスクスと笑い。
『平等に愛を注ぐ、というのは簡単なことじゃない。一人でも抱きれずに零れ落ちてしまう人もいるんだもの。』
『大事にしてあげなさい?エゴで、女を傷つけるのはいい男の条件ではないわよ?』
そう、優しく諭すような言葉をかけられた。
「なぜ、そんなことを?」
『少しばかり知り合いに似た空気を感じたからよ。それと、イイ女としてのアドバイス』
『受け取っときなさい?』
「・・・・・・はい」
何となく見透かされたような気持ちになり、居心地が悪い。
ついと視線を庭の方に向けると。
『お待たせしましたー!お土産を、ってん?なにかお話してました?』
ちょうど同じタイミングでリリーがやって来た。
その手に持っているのは、白百合の華。
「それは?」
『これはお土産でお守りです!帰り道に迷わないように、という願いも込めてます!』
彼女から差し出されたそれを受け取り、胸ポケットにいれる。
綺麗な花だ。丹精込めて育てられたのだろう。
「ありがとう。食事までご馳走になってしまって」
『お気になさらず。私は、私たちは悩める人の悩みを晴らすお手伝いをするためにここにいます。』
『故にマヨヒガ、迷いを避ける家。です!』
屈託のない笑顔に、思わずこちらも笑みがこぼれる。
「少し、考えてみる。そして、答えを出していくよ」
と、答えると同時に意識が遠のいていく。
だが、不快ではない。どこか心地よい眠りに落ちるような、そんな気分だ。
『願わくば、もう貴方がこの家に迷い込まないように』
『彼女たち、大切にしてあげなさいよー』
最後に聞こえた二つの声は、そんなことを言っていた気がした。
「ん・・・・・・?」
ゆっくりと目が覚める。
どうやら歩き疲れて眠ってしまったらしい。
「よし!グダグダ悩む前に帰ってあの子達に会おう!」
不思議と眠る前よりも体が軽く、気持ちも穏やかだ。
覚えていないが、いい夢でも見ていたのだろうか。
早く帰ろう。そして、あの子達を大切にしよう。
その胸ポケットには、いつの間にか白百合の華が刺さっていた。
『お疲れ様、リリー。』
『はい、クロエもご協力ありがとうございました!』
『ねぇ、私あの子どこかで見たことあるんだけど・・・』
『フリードリッヒ家の方ですからね。きっとその時に』
『なるほど。・・・女難の相もあの人譲りなのねー』
『あはは、まあ当人達が幸せならいいのではないでしょうか』
『それもそっか。ところでヴィル兄や潤ちゃん、ウォル君は最近帰ってきたの?』
『近いうちに皆さん帰ってくるらしいですよ。皆さん別々に、ですが』
『あら、そうなの?だったらまた迷い込む人がいるかもしれないわね』
『ふふ、その時は精一杯おもてなしをして上げましょう』
『本当に真面目ねー。さて、私はグランパたちにでも会ってくるわ。』
『御主人様たちもお忙しいのですから、邪魔はダメですよ?』
『ちょっと発明の相談に行くだけだから・・・!』
『・・・・・・・・・これはダメかも知れませんね』苦笑
そこはマヨヒガ。
迷い、疲れた人を癒す場所。
今日もまた、一人の少女が誰かの疲れを癒しています。
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